石造りの2階建て、その1階が店舗スペースである。
日の差し込む一角が外から中が見えるショーウィンドウにはサンプルの箒が飾られており、申し訳程度の客引きとなっている。
店内は開放的で存外物は少なく歩きやすい、シンプルでナチュラルなテイスト。
魔法具の材料となる素材のサンプルが宝石箱のような物に入った状態で設置されている円形の大きめなカフェテーブルが空間の中央にあることと、奥に元は喫茶かバーでもやっていた建物なのかカウンターテーブルがあること、そしてお試し用の品を収めたガラスケース程度。
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入口には、
【小さな道具、お買い求め頂けます】
【魔法の手助け致します】
・小さな素材を貴方に合った形に加工します。
箒の材料でも、貴方が持っているものでも、此処にあるものでもかまいません。
星の力に『形』を持たせる際の補助に。小さな変わった小物として。お気軽にご相談下さい。
・店主が趣味で作った道具達もお譲り致します。
如何せん、癖が強い子が多いこととは思いますが気になった子、手に触れてみたい子が居た場合はお気軽にお申し付け下さい。
と記されたボードも置いてある。
現在の商品説明板(コメント8~10が現在のラインナップ。ツイッターで紹介した分の在庫も店の奥に)
https://rakkami.com/topic/read/2655
迷子、ですか?(目をぱちりと瞬かせ)
僕もよくなりますが、大丈夫なのでしょうか……でも、呼ばれたと言うことも……うーん、そうですか。なるほど(一人で小さく納得したように頷き)
『未だ見ぬ君へ』この子は客様のものかもしれません。
(ふわりと机の上にあった箒をテーブルの上から降し、自分の胸あたりの高さに浮かべ)
これは、繊細で想いのこもった髪留めを芯に使った箒です。
芯を包む柄自体は祈りが指向性を持つ前の純度の高い結晶で出来ています。
穂には月光の光で羽根を休める小鳥達から分けて貰った綿羽と陽光の中で華やぐ花祭りの中を舞う風の子達を使っていて、うたた寝をする小鳥たちを優しく目的地へ運ぶように、花嵐の中でも柔らかく浮かぶ事が出来ますよ。
柄の結晶はとある祈りの場の瓦礫が年月を経て指向性が夢に溶け結晶化したもので、生まれる前のような状態になっているのだそうです。
そのため推進力や導く力と言ったものは一切無く、その祈りに指向性のようなものもありません。
在るのはただ、純粋な祈りの場としての想いそのものだけ。
想いを内包し、持ち主に寄り添い浮かぶ、静かで穏やかな凪いだ箒。
その持ち主の絶対的な味方である箒。
―――そう、箒屋さんは言っていました。浮かぶもの、寄り添うもの。
何も特別な事は出来ませんが、ただ在る事を良しとして、善しとされる比翼の箒。
不思議な箒だと言えばそうかもしれません。
優しい子だと僕は思うのですが、どうでしょうか。
(こてんとお客様につられて首を傾げながら、柔らかく微笑み)