石造りの2階建て、その1階が店舗スペースである。
日の差し込む一角が外から中が見えるショーウィンドウにはサンプルの箒が飾られており、申し訳程度の客引きとなっている。
店内は開放的で存外物は少なく歩きやすい、シンプルでナチュラルなテイスト。
魔法具の材料となる素材のサンプルが宝石箱のような物に入った状態で設置されている円形の大きめなカフェテーブルが空間の中央にあることと、奥に元は喫茶かバーでもやっていた建物なのかカウンターテーブルがあること、そしてお試し用の品を収めたガラスケース程度。
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入口には、
【小さな道具、お買い求め頂けます】
【魔法の手助け致します】
・小さな素材を貴方に合った形に加工します。
箒の材料でも、貴方が持っているものでも、此処にあるものでもかまいません。
星の力に『形』を持たせる際の補助に。小さな変わった小物として。お気軽にご相談下さい。
・店主が趣味で作った道具達もお譲り致します。
如何せん、癖が強い子が多いこととは思いますが気になった子、手に触れてみたい子が居た場合はお気軽にお申し付け下さい。
と記されたボードも置いてある。
特化、ですかー……。
特化……とは少し違うのですが『専用』と言った意味でしたら心当たりがあります。
(少し考えるように首を傾げ)
お客様。『汎用』とは少し遠いものになってしまうのですが、もう1本紹介したい方がいるのですが宜しいでしょうか?
このような箒なのですが……。
(玻璃硝子のような素材の藍色の柄に、切子模様がアラベスクのように石突と柄と穂の接点の部分に施された箒を店の奥から取り出す)
これは玻璃の箒。
柄の中の水の記憶が生きている箒です。
穂は魔力を蓄える性質を持った布を使っていて、穂と柄の接点部分にある花飾りも同じ布で出来ているんですよ。
夏は涼しく、布がマントのように日よけに使えるのは勿論ですが、柄の中で気泡が昇ったり、鏡面のように静まったり、箒の担い手に合わせて表情を変えるんです。
そしてお日様に翳すと、硝子が陽に透けて地面に模様を写すんですよ。―――こんな風に。
(きらきらと涼やかな万華鏡のように、気泡が形を変え、姿を変え、草になり花になり風になり蝶になる様子が地面に映し出され)
これは水の記憶。泡沫の夢。そして結実たる現。
現実に腰を据えて、今でも水はその記憶を蓄え続け、箒の担い手にその『美しいもの』をお福分けしてくれる箒だと、箒屋さんは言っていました。
お客様の話を聞いていて、この方を思い出して連れて来てしまったのですが……どうでしょうか?