裏設定も兼ねた小ネタ話をちょっとずつアップ予定
「今から見せるのは僕がいつも寝不足な理由にまつまるちょっとしたお話さ
もちろん信じるかどうかはアナタ次第、だけどね・・」
「あぁ、日暮さんとこの坊ちゃんか。今日は来てる練習生も少なめだけど、スパー相手探してる奴が一人いるからね。そいつに一応声掛けてみるよ。プロテスト前だからピリピリしてるけど大丈夫かい?・・ん、分かった。じゃぁアップさせて待ってるから。はい、はい~」
こんな寂れたジムに来てくれるだけ有難いとは言え断るべきだっただろうか・・
思えばお世話になってる寝具屋のご子息さんがボクシングを始めたと聞き、私が声を掛けたのがきっかけだった。
最初は遊び半分。高校生活の思い出作りのために、もしくは学歴を彩るため・・
そんな子達にもボクシングの面白さを教えたい。そしてうちのジムで将来の道を築いてあげたいと思っていた私にとって、彼がうちのジムに遊びに来たいと言ってくれた日のことは昨日のことのように覚えている。
・・だが、彼は私が想像していたボクシング好きな高校生からは大きくかけ離れていた。
ジムに来て早々彼は、ジムに通う候補生のなかで最も強い生徒とスパーリングをしたい、そう訴えたのだ。
それがどれほど、無謀な事なのかは誰の目から見ても明らかだった。
現に彼は何度も拳で圧倒されリングに身を横たえ肩で息を吐き、そして静かに笑みを浮かべ立ち上がったのだ。
何度でも・・
何度でも・・
何度リングに叩き伏せられても彼は立ち上がる。その度に私はスパーを止め攻撃をいなし 攻勢に出る手段、カウンターの技術を彼に叩き込んでいった。
彼は無邪気な少年のような笑みを浮かべ稚魚が成長に応じ自然に泳ぎ方を身につけるかの ように、私が教えた術を吸収していった。
そして、彼が通って3ヶ月ほど経った現在。最初は手も足も出ず赤子同然にボコボコにされていた少年に
勝てる練習生は誰もいなくなってしまった・・
今でもたまに怖くなることがある。無邪気な笑みを浮かべボクシングに打ち込む目の前の少年が
私の何もかもを喰らい尽くしてしまうのではないか、そんな気すらしてしまうのだ。
プロになる夢を抱き、二人三脚でボクシングに情熱を注いできた私の希望ですらも・・
・・ドアが開き、気だるそうにあくびをしながらも眠れる獅子は私達に牙を剥けている
平静を装いつつも、汗ばむ手を握り締めながら・・私はいつものように一言告げた
「紹介しよう。私の長男だ・・君とのスパーを楽しみにしてたみたいだよ。」