ゾンビシナリオ中に、握利平が思い返した映画
3
窓から朝のオフィス街を見下ろした俺達は、固まっていた。
この時間、閑散としているはずのオフィス街は、奴等で賑わっていた。
そう、血を流したり、もげた腕を咥えたり、ひしゃげた首で歩き難そうにしてる、なんて言うか、所謂、ゾンビだ。
「アレは、アレか? アレだよな? ゾンビ、だよな?」
寝ぼけて頭の回らない相棒が、頭の悪い言い回しで問い掛ける。
いや、すまない。
俺だって、アレを他にどうやって言い現わしていいのか解らない。
「おお、ゾンビ、だな」
案の定、返す言葉も寝ぼけている。
「なんだ? なんでだ? 昨日まで、作晩まで普通のオフィス街だったじゃないか。俺が夢を見てるのか? 政府の秘密機関がやらかしたのか? 太古の墓でも掘りだしたのか?」
相棒は、俺に説明を求めている。
冗談じゃない。
「落ち着けマイク、喚いても何も変わりはしねえ。作者が『数時間前』なんてテロップ付きで解説してくれるのはヒーローかヒロインに対してだけだ」
そう、俺等端役に対して、物語は残酷だ。
「とりあえず、だ。下の警備室まで行って武器を調達しようぜ。俺は、早く家に帰って寝たい」
喚く相棒を促して、俺達は警備室に向かった。
ヤレヤレだ。小太りハゲがハンサムをリードするお話なんて、誰が見るんだ?
「ジョン、誰と話してるんだ?」
相棒が不安そうにこちらを見ている。
「誰って? 俺を愛する、まだ見ぬフィアンセにだよ」
最高の笑顔で答えた俺を、相棒は複雑な表情で見つめた。