夜歩く人たちのある日の記録。どんな事が起きたのやら。
そうね…。
貴方は、元の自分に戻りたいの?
それとも、戻らなければならないと思っているの?
(気高い魂との言葉に呆気にとられたように
目を二、三度瞬かせ、くすぐったそうに微笑む)
気高い魂だなんて、そんな言葉を貰うのは初めての経験だわ。
不用意に好意を振りまくのは感心しない…。
…他の友人にも似たような事を言われたわ。
悪女になりたいのでもなければ気をつけろって。
一応気をつけてはいるつもりなのだけどね…。
ええ、それはもう。
気に入られ過ぎていて、貞操の危機さえ感じるわ。
(苦笑し、軽く肩を竦める)
…希望をもつことは、時に苦痛を伴うものね。
だけれど、絶望に染まり切ってしまえば
きっと今以上の悲しみと苦しみを
味わうことになるのではないかしら。
…ええ。そうでしょうとも。
人は誰しも、心の底では愛を求めているものだもの。
………。
(純粋だ、との言葉に静かに首を横に振り)
違うわ。私が妹に向ける愛情も決して純粋なものではない。
私があの子に向けているのは愛憎。
…私の妹は、貴方の兄に少し似ているわね…。
(ハンカチを取り出し、従夢さんの涙を拭おうとする)