扉には、なぜかところどころ焦げて黒ずんでいるため、とても見にくいものの、
落ち着いて、じっと目を凝らせば『獅子島』と判読できる、桜木でこしらえられた表札が。
たまたま見落とされやすい場所なのか、気に留める人はあまり多くもないけれど。
5階の、中途半端などこかにある、そんな部屋。
中の基本構造や間取りは、標準的な他の部屋とほとんど同じ。
だけど、内装や家財、水回りなどの洋式設備さえも、和の一色で染められていて。
飾り気は控えめながら、どことなく小洒落た、それでいて温もりのある佇まい。
そのわりに生活感が薄く余所余所しいのは、きっと…長いあいだ、誰も居なかったから。
白檀と、木と、藺草と、桜花の混ざったような匂いが絶えず。でも、ほのかに。
うっかりすると、女当主が執り仕切る、旧家の本邸かナニカと錯覚しかねない。
…なんて。今時の若い子には分かりにくいたとえを思い浮かべてしまいそうな、異次元。
こんなところで、あのフーテン女が1年以上暮らしてただなんて、誰が信じるだろう。
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獅子島市子の個人部屋トピックです。
原則、市子の【入室】から【退室】までの間のみ、どなたでも応対します。
ただし、中にお通しするかどうかは、そのときどきの会話の展開と…気分次第です。
※リアクションまたはコミュニティのRPにおいて『市子の連絡先を知った』方や
ともだち設定で『相互に★3個』以上の方は、不在時も呼びつけることが可能とします。
マナ………いや。
(四肢のひとつひとつを滑らかに整え、背筋をやんわりと伸ばし、厳かに正座す。
やがてつむぐ語も、句も、説も、滑舌よく。大きくも小さくもない声で)
維都月茉菜さん。…ご存知ですね。
二択を示すということは、ともすると、双方を非難するに等しい行為であると。
こたびにおいて、それは、世を統べうる二つの、身勝手な…神格。
しかるに、あなたは神による統治を看過できないおひと。まして、受容など。
おそらく、神という観念そのものに、強く、深く、絶望して…いるのでしょう。
ゆえに………ゆえに。ある種、誰よりも、かの御柱を信じてもいる。
執拗なほど。愚直なほど。その力を信じればこそ、許すことができないのです。
…茉菜さん。
あなたの望む世界に、あなたの好きなひとたちの姿を思い浮かべられますか。
その輪の中に、茉菜さんはいらっしゃいますか。
もし、そうなら。私はテオの…テオドロス・ヴァルツァの世界を、選ぶでしょう。
なぜなら…彼の考え方には、茉菜さんのそれと、なんらの矛盾も見出せないのだもの。
それどころか…………………他ならぬ茉菜さんこそ、彼の求めている人材のはず。
本当は、苛んでいるのではありませんか。
あなたがたがニ柱の神を出し抜いて、なお、焦燥も狼狽も窺わせない彼の姿に。
本当は、気づいているのではありませんか。
茉菜さんが理想との距離を縮めるほど、彼の思い描く世界に、より近づくことに。
テオの思う壺である自分自身に。
それで構わないのなら、あなたは聖女たりえます。片時も目を逸らしては駄目。
どうぞ存分に、未来を見据えなさい。導いてご覧なさい。世界をあるべきかたちへと。
けれど、…そうでないのなら。
(少し、目を細くして。やや声を沈ませて。いたわるように。いつくしむように)
そも、あなたは、鴉と猫を秤にかける資格を持たざるおひとです。
同様に選ぶ資格を失う私の口から、神々について申し上げるべきこともなく。
ならば、全てを忘れ、心穏やかに暮らしなさい。フツウの高校生として。ひととして…。