こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
お茶の時間が終わり、館内を気ままに巡るアナタ。
その違いに気付いたのは、2度目に前を通った時だった。
両手に収まる程の大きさ、意匠をこらした箱には、鮮やかに花咲くローズマリーが描かれている。
(オルゴール? それとも仕掛け箱?)
アナタの興味は箱を覆うガラスケースに阻まれる。
見れば透明な防護壁には、真鍮の南京錠まで付いている。
他の展示物とは明らかに異なる扱い、説明書きも、まだ、無い。
館主による説明書きは先日付けられ始めたばかりで、まだいくつかの展示物にしかない。
「どうかしましたか?」
透明な檻に囲われた、赤みがかった木箱の前に立つアナタに館主が気付いた。
悪戯を見咎められた子供の様に一瞬、身を竦ませたアナタだったが、すぐに館主と向き合う。
柔和な館主の表情はアナタを安心させた。
「ああ、そのオルゴールですね。ソレは事情があって鍵を掛けてありまして……」
アナタの近くまで来た館主は、申し訳無さそうに言う。
「最近、そのオルゴールを手にしたお客様が、ソファで眠ってしまって……。
1時間程でお目覚めになったのですが、後日、他のお客様も同様の症状になられて、それ以来、鍵を掛けているのです」
(オルゴール…、どんな曲を奏でるのだろう)
アナタは何故か、ソレが起こした事象よりも、ソレが奏でるであろう美しき調べに興味を抱く。
館主もそれに気付いたのか
「曲が気になりますか? そうですね、私が持っていれば平気かも知れませんので……」
言って、胸のポケットから金色の鍵を取り出す。
館主が南京錠に手を掛けた、その時
「オーデン様っ!」
美しく透きとおる、だが対象を射抜く氷の矢のごとき鋭い声が、館主を凍りつかせる。
金色の髪を結い上げた、黒いパンツスーツの女性がこちらを見ている。
先程のアナタより深刻な顔をした館主が振り向き、苦笑を浮かべた。
「エリザ……」
金髪の女性は赤い下弦の眼鏡を掛け直すと、呆れたように溜息をつく。
「お客様にまた何かあったら、どうなされるのですか」
歩み寄った女性は、アナタに向き直ると
「我が主が失礼を致しました。どうかお許し下さい」
戸惑うアナタに館主が答える。
「失礼しました。どうかお許しを。紹介しましょう彼女は私の執事。エリザ・マグノリアです」
赤い下弦の眼鏡の奥、灰色の瞳が印象的な女性は、胸に手を当てると完璧なお辞儀をする。
「エリザと申します。どうかお見知りおきを」