こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
気ままに館内を舞っていた黄金の蝶が、フワリ、と作業机に降りる。
無事の着地に胸を撫で下ろし、しばし会話が止まる。
オルゴールの音色も途切れ、館内に残る音は歯車達のささめきだけ。
……。
沈黙を破ろうと、誰かが口を開けた時、鐘の音が時を告げる。
1……2……3……4……、4回。
鼓笛隊の演奏を横目に館主が懐中時計を開き、何か合図を送る。
ロビー横のドアが開き、……誰も現れ……無い?
いや、小さな人形が現れた。
花菱柄の赤い着物に、桜色の帯を締めた可愛らしい日本人形。
おかっぱの髪を揺らしながら、カタリ、カタリとこちらに歩いて来る。
手に持つおぼんには、湯気立つ湯呑みがひとつ。
人形はアナタの下で止まる。
アナタが戸惑いつつ「ありがとう」とお茶を受け取ると、人形は一礼して踵を返し、カタリ、カタリとドアへ戻る。
すれ違いに使用人が現れ、人形を笑顔で見送る。
使用人のおぼんには、人数分の湯呑みが揃っていた。
「可愛らしい人形なのですが、一人分のお茶しか出せないのが難点ですね」
館主が苦笑する。
「日本のカラクリには、木が多く使われていますので、動く時に味わい深い音が出ます。
中身を見て驚きましたが、歯車類も木製なのですね」
お茶を配り終えた使用人がドアを閉め、人形は姿を消す。
「アレは江戸時代のモノと聞きましたから、ええと、200年程前ですか?
とある豪商の持ち物だったそうです。
只の思いつきで作らせたそうですが、明治の終わり頃までは、現役で給仕をしていたそうです」
館主は嬉しそうに微笑む。
「歯車や駆動部は傷みますからね。
約100年、何人もの職人達が手を加えた跡が見られました。
国は違えど、職人の心遣いには共感しますね。
ある職人は折れたピンを固い木質に差し替え、ある職人は角を丸めて着物の擦れを防ぐ」
おっと、お茶が冷めてしまいますね、と館主は苦笑いし
「古い機械は使う側の物語も楽しいですが、歯車達に込められた技術も、職人にとっては楽しい物語なのです」
館主は話を締めくくり、手元のお茶を少し掲げる。
「さあ、今日は日本茶にしてみましたよ。お茶受けは水饅頭です」
私は初めてですが、と水饅頭を摘まむ館主は、まだ嬉しそうに微笑んでいた。