こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
展示室の隅に設置された作業台。
顔を上げ、室内を見渡した館主は、再び目の前の難題に取り掛かる。
ここに至るまで数日を要した。
それは、細長い、と言っても指先に乗るほど小さな体から、磨かれた真鍮の放つ深い金色の輝きを放っている。
体の内部に透けて見えるのは、館主が右目に着けたモノクルでなければ判別出来ぬ程の、ごく小さな歯車の集合体。
その背から伸びるのは、オレンジの灯りを受けて煌めく、金色に縁取られた透明な4枚の羽根。
「金色の蝶・・・・・・」
誰かの呟きが漏れる。
それと同時に細いピンセットの先端が、最後の歯車を止めるピンを刺し終える。
館主の肩が大きく上がり、長い溜息と共に降りて行く。
引き出しから、これまた小さなネジ巻きを取り出すと、館主は慎重にネジを巻く。
「さて、皆さん。私自身3回の失敗を経ての今日この日」
ネジを巻き終えた館主が口上を述べながら、そっと羽根をつまむ。
「およそ2世紀前に、幸せな家族が見た光景を再現出来ますかどうか?
その日は大病を克服したばかりの、一人娘の誕生日。
約束した花園へのピクニックが叶わず、沈む娘。
両親は娘の寝室を花で飾り、小さな木箱を手渡しました」
館主が古びた木箱に、蝶を納める。
「涙を拭きつつ、箱を開ける娘。現れたのは金色の蝶」
館主がこちらに向けた木箱を開けると、金色の蝶がゆっくりと羽根を動かす。
黄金に縁取られた4枚の羽根が風を探す。
しばらくして館内の緩やかな空気の流れを掴み、輝く体がフワリと浮くと、館主は嬉しそうに目を細めた。
ヒラリ、ヒラリ、とオレンジ色の光をを受けて蝶が舞う。その軌跡に、光の粒子を引き連れて。
2世紀を経て蘇った、両親の愛が込められたプレゼントは、今日再び、笑顔を運んで来たのであった。