こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
薔薇のアーチを抜け、再び展示室への扉を前にしたアナタ。
「うあぁっっと」
左方からの叫びにそちらを向けば、館主が尻もちをつき、頭を掻いていた。
「やれやれ、失敗ですね。少々バネを強くし過ぎたでしょうか?」
一人呟きを洩らす館主はアナタに気付くと、バツが悪そうに再び頭を掻く。
「格好悪い所を見られてしまいましたね。当館へようこそ」
挨拶を返すアナタは館主の手に、くすんだ黄金色の犬……らしきモノを確認する。
姿形はピンと耳を張り、尻尾を振る小型犬のソレだったが、その身は冷たい真鍮の部品で覆われている。
腕に捕らわれた黄金の犬は、それでもカタカタと音を立てながら駆けるのを止めない。
尻尾と足を元気に動かしながら、口を開け、舌さえ出してみせる。
その顔は真鍮とは思えぬほど精巧に、主人を想い、喜び溢れる犬の表情を模っていた。
館主が苦労して尻尾の付け根を操作すると、跳ねる小犬はようやく大人しくなった。
「この子は、私が叔母から譲り受けたものです」
遠くを懐かしむ様な表情。
「叔母は優しい方でね。小さい頃に亡くした愛犬に誓いをたてて、
たいそう犬好きであるのに、その後新たに犬を飼おうとはしなかったそうです」
口許に笑みが浮かぶ。
「その誓いとは『大人になったら愛犬を生き返らせる事』」
館主が再び犬の尻尾を操作し置くと、犬は地面に寝そべり、ゆっくりと尻尾を左右に振る。
「大人になり、それが叶わぬと知った叔母は腕の良い職人を探し出し、この子を作らせ、誓いを果たしたと言う訳です」
本棚には黒魔術の本も並んでいましたがね……。小声で薄暗い紆余曲折を風に流す。
「ともかく、叔母は晩年をこの子と幸せに過ごしていました。
そして天に召された叔母が遺したこの子を、私が受け継いだのです」
そういうと館主は、再び懐かしむ様に天を見上げた。