こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
光沢のあるベージュのドレスに身を包んだ、等身大の人形。
ドレスの背中を、緩やかな曲線を描いて流れる金色の髪は、オレンジ色の灯りを反射して煌めいている。
白磁の顔に配された薄い唇、上品に整った鼻、精緻な模様まで再現されたガラスの青い目。
それらは人形師の卓越した技によって、向かい合う相手に向けられる、淡い微笑みを湛えていた。
館主は広めの展示台に上がると、人形の手を取り、腰に手を添える。
すると人形から、カチリと歯車の噛み合う音が響き、自動人形は世に産み出された理由を示す。
チクタクと、無数の時計達が刻むリズムの中、1・2・3、と繰り返す声と共に、人形と館主が優雅なステップを踏む。
しなやかなに動く肢体は館主にピタリと寄り添い、動かぬ筈のその瞳は、オレンジ色の光を受けて艶やかに揺れる。
数節、美しき金髪の女性と演奏無きワルツを楽しんだ館主は、節の終わりに手を離し、女性はまた、人形に戻った。
ドレスの乱れを直しながら館主が語り出す。
「この人形はオーストリアの、とある紳士が作らせたモノです。
その紳士はワルツが苦手で、社交の場で意中の姫君の誘いを断ってしまった」
展示台から降り、振り返る。
「練習用に作らせた人形と毎晩のように踊った彼は、数か月後にその姫君と一度踊り、
そして二度と社交場でワルツを踊る事は無かった」
結局は生涯独身だった様です、そう付け加えると、汗ばんだ髭を丁寧に撫でつけた。
切り上げようとした館主は、続きを促す視線に気付き、苦笑いを浮かべる。
「これは、あまり話すなと言われているのですがね」
許しを請うような仕草
「紳士が遺した肖像画を見せて頂きましたよ。
そこにはワルツを踊る、一組の男女が描かれていました。
女性を見つめる紳士は幸せそうに微笑み、純白のドレスに身を包む女性の顔には、美しいベールが掛かっていました」
館主は肩を竦めると
「一世紀も前の事ですが、これ以上は勘弁して下さい」
そう言って、再び苦笑いを浮かべた。