こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
鐘の音が響く。
館内のざわめきを全て制するような存在感で、1……2……3……4……、4回。
何事かとその方向に目をやれば、大きな壁掛け時計の針が、丁度4時を指していた。
白い文字盤の左右が反転し、鼓笛隊の格好をしたサル達が現れると、笛とベルが行進曲を奏でる。
さらに左下の扉が開くと、奥から動物達が躍り出た。
彼らは皆、一様に笑顔で、様々なお菓子を抱えている。
シュークリームを頬張るキツネを先頭に、続くウサギとリスがマカロンを両側から齧る。
ハリネズミが大きなキャンディを抱えて転がり、フクロウはタルトのブルーベリーを啄ばむ。
クマが持ったパンケーキには、零れそうなほど生クリームが盛られ、下ではネズミが口を開けて待っている。
一行は文字盤の前を4回行き来すると、右下の扉に吸い込まれていった。
曲が途切れると、4回ベルが鳴り、左右の鼓笛隊も盤の裏へと帰って行った。
「館内の時計は展示用にずらしてありますが、あの時計は正確です。おやつの時間ですよ」
館主が懐中時計で確認しながら、満足そうに頷く。
「この時計は街の広場を囲む、カフェで時を告げていた物です」
現れたメイドに何事か指示を出し、さらに続ける。
「広場の向こう正面にある歯医者の男が、いつもは2時のお茶の時間に遅れてカフェにやって来ると、お気に入りの席に美しいご婦人が座っている」
「いつもの席に座れなかった男は、いつもの様に不機嫌にお茶をすすって帰りましたが、翌日も、その次の日も、同じ時間にカフェに来て、不機嫌そうにお茶をすする」
館主は漏れそうな笑いを堪える。
「季節が巡り、いつもの様にやって来た男は、この時計をカフェに贈り、次の日からはご婦人と二人でお茶に来るようになったそうです」
「二人の時も、顔は不機嫌なままだったそうですがね」
館主が堪え切れずに笑う。
「さて、ロビーでお茶にしましょうか。今日はピスタチオのマカロンを用意させましたよ」
お茶の後も、館主の話はまだまだ続きそうである。