こちらは展示物の紹介トピックになります。
恐れ入りますが、管理人以外は書きこまないでください。
雲を突く断崖の頂上に立てられた修道院。
俗世との繋がりは、吊り橋が一つ。
その対岸も相当な苦労をして登る、急な山である。
切り取られた地で暮らすのは神に仕える女達であり、そこには時折、婚礼前の身分の高い娘が訪れ、数週間を過ごす事があった。
また誰かが滞在しているのであろう。
星明かりに照らされた麓の村に、聞き慣れぬ歌が降ってきた。
澄んだ空気と溶け合うような美しい声は、どこか憂いを帯びて物悲しい。
天にそびえる断崖は、声を反射して村全体へ届ける。
子供の寝顔を見守る母親も、急ぎの仕事に追われた靴職人も、誰もが耳を傾け、心地良い一時に感謝した。
歌は修道院の鐘と共に終わり、辺りは静寂に包まれる。
歌降る夜は、次の日も、次の日も訪れた。
村の青年たちは山へ登り、声の主を確かめようとしたが、揺れる灯の写す影と煌めく金髪を盗み見たのみ。
吊り橋を渡る事は、当然許されなかった。
五夜目に誰かが、歌で応えた。
声は力強く崖を登り、きっと娘に届いたのだろう。
鐘の鳴ったその後に、短い歌が降ってきた。
十夜目には互いの声も熱を帯びて、返歌に返歌が続いた。
ところが十一夜目に、歌は突然降らなくなった。
麓から呼ぶ歌にも、応えるのは鐘ばかり。
誰かが山を降りたという話も聞かない。
村全体が、不安に包まれた。