遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
悪魔は最初からそう生まれついた。人をたぶらかすのが奴らの仕事だ。餌の幸せになど興味がないとばかり思っていたが……
故人を悪く言いたくはないが女性関係だけは擁護できないな
インスピレーションが湧くんだとかなんとか……まあ、何十人も愛人を囲っていたピカソの例もある。芸術家には稀にいる、多情で淫奔なタイプだ。
尻拭いね……(面白い冗談を聞いたとでもいうふうに静かに笑い)それですめばよかったんだが
(従夢さんの指摘に黙り込み、目の温度を下げる)
……俺は自分が温かみのある人間だなど思い上がりはしない。一部は当たっているが……時任を責める材料を捏造したと言われてはさすがに心外だ。
俺だって同情する事はあるさ、無責任に憐れめる範囲でな。……身勝手な理屈だが。
時任の性格の悪さは周知の事実だ、俺だけが知る特権じゃない。……まあ、一番被害にあってたのは間違いなく俺だけどな。
……矛盾、してるか(自分の発言を一つ一つ思い返し)……確かに。そうだな
でも君も覚えがあるんじゃないか?
たとえば愛玩動物だ。気まぐれに構い虐げて可愛がる動物がいるとする。
それが病気になったら慌てるし看病もするさ、いなくなったらもう俺で遊べなくなるんだから。
自分の「物」に執着するのは当然の心理だろう。
(従夢君の慌てぶりを愉快そうに眺め)
キャラが変わってるぞ。……図星だったか
誰だか知らないが相当熱を上げてるようだ。ああ、もっと惚気てくれてもいいんだぞ
その人物とはどうやって知り合ったんだ?
君からナンパしたとか?
女性が苦手なのか?
……月並みなアドバイスだが、苦手なら避ければいいんじゃないか?そっちのほうが両者にとって有益だ
克服しようと無理に接触しても良い結果は生まない。
……そうだな。女性全般が苦手というならしょうがないが、その中で苦手なタイプ、そうでもタイプを分析してみたらどうだ。女性を感じさせる女性が苦手なのか、さばさばしたタイプなら比較的大丈夫なのか、傾向が見えてくるはずだ
「他人」という人間がいないように、「女性」という女性もいない。性も個性だと捉えてみろ。
もしどうしても向き合わねばいけない必要に迫られたら、最低限失礼じゃないよう振る舞えばいいんじゃないか?
苦手な物を完全に克服する事はない。それは物凄く難しい事だ。でも自分を上手く誤魔化す術なら身に付けられる。
長く生きれば自然と処し方もわかってくるさ。