遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
(呉井さんの言葉に心なし表情を和ませ頷いて)
……そうだな。彼女は優しい。優しすぎる程に。そして純粋だ。あのランプシェードは人柄を反映しているな
深海の青を表現していてもそれは人を拒絶する冷たさじゃない、人を癒す色だ。
君も彼女も創作面のユニークさは引けをとらない。化学反応で新たな着想を得るかもしれないな。
ああ、帰るのか。長く引き止めて悪かった、気をつけてな
(呉井さんを見送ってから他の面々に向き直り)
(従夢さんの兄の話に真顔で聞き入った後、冷笑じみて目を細め)
……君のお兄さんは聡明だね。なかなか穿った考察をする。
悪魔でも恋をする、か……ロマンチックと言おうか。至言だ。俺には想像できない、あいつが人を好きになるところなんて。悪魔に恋された人間なんて不幸でしかない、その時点で人の幸せは望めないのだから
真相は闇の中、真実は誰にも…全能の悪魔の如く振る舞う時任自身にも判らないのかもな。
あいつの女癖の悪さは病気だった。俺も何度も煮え湯を飲まされた……
ピアノを弾いてる時のあいつは無敵だ。あいつの世界は壊せない。一番近くで見てきた、いや、全身を耳にして聞いてきた俺が断言するんだから間違いない。
……あんな性悪に恋した女性に同情するよ
冷酷でない一面……さあな。あったかもしれない。気を許した相手には他愛のない悪戯をしたし、幼稚な振る舞いもした。
俺が風邪をひいて寝込んだ時は頼んでもないのに看病してくれた。わざわざ大学を休んで……サボりの口実にしたかったんだろうな
……寝言を聞かれたのはばつが悪かったが(聞こえるか聞こえないか程度の小声で呟く)
(従夢さんの言葉に面白そうな顔をし)
一体誰を思い描いてるんだ?どうやら君の大切な人らしいな。のろけにしか聞こえないぞ。
子供っぽいというと体裁が悪いが、いくつになっても稚気を忘れないのは結構な事じゃないか。
まあ程度によるがな。childishとchildlikeの差だ
どんな生活……別に。普通の生活さ。家と職場の往復で一日が終わるからとりたてて語る事もない。
君が思ってる以上につまらない男だよ俺は(肩を竦め)
……そんなに遊んでるように見えるか?(苦笑し)……最近は大人しくしてるんだが
女性との付き合い方ね。しいていえば……そうだな、お互い割り切って楽しむ事か。過度な期待は禁物だ。
依存も束縛もしない。お互いを放し飼いにする、その方が性に合ってる