遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
ええ。その姿も、演奏も、直に。僕はそれで、彼に関わるのは危険だと感じた。一緒に居た人間は彼の音楽を「なにかさがしてるみたい」と言っていたけれど
自殺……彼自身が同じ運命を辿った
彼自身も、自らの音楽に滅ぼされたのだろうか
いえ。そうですか。あなたが真に理解出来たのは彼の音楽だけだった……くだらない虚栄心では満たせないものを知ってしまった。あなたが彼の音楽に取り憑かれたように
最も近く、最も遠く、けして手に入れる事もできない。手にしてしまえば、それは価値を失う。望ものではない
ええ、彼は楽しかったでしょうね……
悪趣味な優越感だけだったのだろうか、僕は知れない
さあ。時任彼方と同い年ならば、おおよその見当はつきますが……。面倒ですか?残念です。僕は斑鳩さんと会話するの楽しかったのに
そうですか……僕だって人の反応を見て面白がる所があるから、人の事は言えないですね……
(斑鳩さんの、時任さんの話を聞いて、少し、哀しげに笑った)
はは……
僕はその友人が憐れに思えてきた。斑鳩さん、ある面に関しては貴方こそ非凡です。貴方が本心からそう言っているのなら……
傷の舐め合い……ふふ、僕がやっているのは人の傷をただ舐めているだけ
僕は本当に傷を癒やしたのかな……?傷が癒えてしまった僕に、そばにいてくれる人なんているのかな……
そうですか……?でしたら教育して頂けませんか……?
(目をぱちくりさせる赤潮さんに、少し戸惑いつつも微笑み)
……ええまあ。そんな所ですけれど。ええ、宜しくお願いします。僕は皆口従夢と言います。学生です。貴方は?
関西の方ですか……本土から来られたのですか