遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
(陽太さんの言葉にひとつ頷き)
気持ちは有り難いが、学校の方は大丈夫なのか?色々と忙しそうだし……無理はするなよ
放っておいてもピアノは逃げない(少しだけ冗談ぽく)
照れることはないだろう、ありのままの事実を述べたまでだ。
実際君のおかげでピアノは息を吹き返したからね……長い間通っているのに俺には直すという発想さえなかった。朽ちるに任せて放置するだけ、忘却するだけ。
その技術を持ち合わせないのは確かだが、むしろ姿勢の問題だ
……これでも感謝してるんだ。口に出すのは些か面映ゆいが(珍しく物柔らかな笑みを浮かべる)
(深雪さんに向き直り)
ご丁寧にどうも。
自己紹介が遅れたな。俺は斑鳩遥、寝子島水処理センターの研究員だ。
ここには仕事帰りにふらりと立ち寄る習慣でね
……陽太くんとそちらの……従夢君と同学年か。奇遇だな。寝子高には個性的な学生が集うと見える
(深雪さんの言葉を推し計るように目を細め)このピアノに見覚えが?
二十年も放置されていたから傷みが激しい。
音が出る鍵盤と出ない鍵盤があってね……焦げ付いたフィルムのように、欠落した記憶のように、虫食いだらけの楽譜のように
(鍵盤に一本指をおく。ぽん、と音程の外れた音が零れる)
……このピアノが直ったら……(後半の呟きは声に出さず)
(深雪さんの手をじっと見)
君もピアノを弾くのか?
……俺の許可はとらなくていい。是非聴かせてくれ