遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
斑鳩でも遙でも好きに呼んでくれて構わない。
工芸系か……意外といえば意外だな。
粘土細工というと、どんなものを作るんだい?どうも夏休みの宿題で作った紙粘土の記憶しかなくてね
さて……何を作るんだろうな?実は俺もはっきりとは知らないんだ。今度聞いてみる。
あの性格からして至極透明感のある繊細なモノを手がけるのだろうが……
感受性が強そうだからな、彼女は
(呉井さんのてのひらにのった猫の人形を見おろし)
……存外ファンシーというか、可愛らしいな。個性的と言い換えるべきか
きもかわ……最近はそういうのが流行っているのか?
なんというか、生物学上の進化に失敗したような形態が
へえ、軽音楽部か。
ピアノのみならずドラムも嗜むとは多趣味だね。若いうちは好奇心の赴くまま色々と試してみるといい。それで何か一つでもモノにできれば将来の強みになる。
……好きで始めた事を将来への投資と考えてしまう時点で不遜かな(自嘲して肩を竦める)
友人も練習を欠かさなかった。一日でも鍵盤に触れていないと勘が鈍ってしまうらしい。
気まぐれで傲慢な男だが、ピアノに対してだけは真摯だった。
プロ?……まさか。そんな大それたものじゃない、買い被りだよ(静かに首を横に振る)
第一プロの聴き手などという言葉は存在しない。俺はただの……(言葉に迷い)……しいていえば、調律用の音叉。あるいはリズムをとるためのメトロノームか。
彼方にとってはそれが一番近い。俺に聞かせる事で演奏を練磨してたんだ、奴は
……話が脱線したな。
とにかく、人に聞かせるからと……ましてや俺に聞かせるからと緊張する必要は全くない、置物か何かだと思ってくれ。友人も俺をそう扱ったからな。
……ああ、知っていたのか。さすがに名前は売れてるな
この人の演奏は……?(呉井さんの言葉の続きを聞きたそうにし)
……手を切りたくても切れない、聞けば聞くほど溺れてしまう麻薬みたいだった。俺にとっては。
これはアイツの死後にでたCDだ。減るものじゃなし、未入手なら聞くといい。
……レクイエムには不穏すぎるがな。この激しさを好む人間もいる。