遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
なるほど、そちらが地か(肩の力を抜いた陽太さんに若干警戒を解いて表情を緩め)
……いや、集中してたみたいだからな。邪魔するのも悪いと思ったまでだ。気遣いとよべるほどのものじゃない
美術専攻か。となると絵か……造型か?(陽太さんの手を興味深げに一瞥)
知り合いの学生は陶芸をやっているそうだが……君はどんなモノを作るんだ?
三つ子の魂百まで、刷り込みの影響力は侮り難い。ピアノはもう随分弾いてないのかい?
……改めて、このピアノが息を吹き返したら何か一曲弾いてくれないか?
弾く方の才能には恵まれなかったが、聴き手としては鍛えられてね。
耳の感度は抜群だと友人の保証付きだ(悪戯っぽく片方の耳をつつく)
上手い下手は関係ない、技巧の優劣のみが人の心を揺り動かすとも限らない。
俺は君の演奏が聴きたい。
……それじゃあだめか?
友人の名は時任彼方だ。
メディアへの露出が多く、世界を股にかけて活動してたからそこそこの知名度はある筈だが……
これにアルバムは入ってる(白衣のポケットからウォークマンを取り出す)
あいつの遺作だ。聴いてみるかい?
自己紹介がまだだったな。
俺は斑鳩遥、寝子島防水処理センターに研究員として籍をおいている
よろしく