遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
そんなにかしこまることはない。いきなり忍び寄るようなまねをした俺も悪かった
呉井君か。ピアノに関心を示したという事は芸術科の生徒か。
……小さい頃から習っていたならかなりの腕前なのかな?
俺がこの遊園地に来た時からこのピアノはこの場所にあった。
一片のみ欠けたパズルの空白が絵として完結しているように、ここに在るのが自然だと認識していた。きっとこの遊園地の衰退を始まりから終わりまで見守ってきたに違いない。
このまま風化を待って朽ちていくのかと思っていたが……
(ポケットから出した手をさりげなくピアノの上蓋に滑らせる)
もう一度生き返らせる事ができたなら、途切れた記憶を音にして紡いでくれるかもしれない
……俺が?(呉井さんの質問に軽く瞬き、首を横に振る)
いや、生憎とそっち方面の才能はなくてね。死んだ友人はよくピアノを弾いていたが……おそらく名前を言えば知っているだろう有名人だ。
俺はただのしがない研究員だ。
君もピアノを弾くのか。ぜひ聴かせて欲しいな。