遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
俺はとっくに堕落してる。あいつに出会った時から……たちの悪い悪魔に魅入られて
そんな資格がないと決めつけたのは君だろう。……言い方を変えよう、君にはそうする「責任」がある。ほかならぬ当事者なんだから責任をとるべきだ、たとえ手を吐瀉物で汚してもね。
潔癖症の君にとっては覿面の罰だ。
悪い関係じゃないか……そうかもな。人にはそう見えるんだろう
腐っても親友だった。憎しみだけじゃない……わかってるんだ、本当は。でも消化しきれない
いつだったか彼方に言われたよ、「お前は根が薄情だから家族を作るのに向いてない」と
女性と付き合っても……何をしててもその言葉が脳裏を掠めるんだ。呪いみたいなものだ。俺を人並みの幸せから遠ざける呪い。実際その通りな訳だが……身近な人間に本性をつきつけられるのはいやなものだね
疲れたよ正直。逃げ出したい
……こんな事を言うと自殺志願者と誤解されそうだが。ああ、いや。案外そうなのかもな……俺は深層心理で死にたがっているのか
だがこんな俺でも惜しんでくれる人がいる。いなくなったら哀しいと思ってくれる人間が
だから彼らの為にも生きる。……それが義務だろう
結局の所生きる理由さえ他人に依存している。生きる目的を捏造して自分をごまかし続けているんだ。消極的な延命さ。弱音を零してすまない
夢の中で窒息する理想的な死に方かもな。亡霊に首を絞められた事なら何度もある
……遙(はるか)じゃない俺は何者でもない。ただの残り滓だ。何の目的もない逍遥だけが人生なら……(言葉は沈黙のうちに消え、透明な諦観を帯びた笑みだけが残る)
ハンカチは返さなくていいぞ
生きたから死んだ、か……箴言だな。そう、死んだのはあいつの決断。あいつの選択だ。死んでないから生きている俺とは対照的だ、どこまでも
……でも、わからないんだ。俺のなにがそこまであいつを追い詰めたんだ?
俺はあいつを殺したくなんてなかった、それは自殺と同義だ。事実彼方が死んだときに俺の半分も死んだ、あいつは俺の魂と心中したんだ
なんで人間は好きな人が見せてる顔だけで満足できないんだろうね
独占欲が昂じると自分に見せない顔も暴きたくなる……そんなことをしても誰も幸せにならないのに
君の気持ちはわからないでもない。俺にもそう思う人がいる
……時々彼女を泣かせたくなるんだ。嗚咽も涙も手にいれたくなる
彼女はきっと綺麗に泣くだろう。
ほら、君が狂ってるなら俺も狂ってる。お仲間だ