「……レ、……グレ、シグレったら!僕の話、聞いてる?」
「え、ああ、すまん、ぼーっとしてた」
幼馴染のレイが怒るでも呆れるでもなく、きょとんと不思議そうな顔で俺を見つめてくる。
母国から体の弱かった幼馴染が此処、寝子島にやってきたのはつい先日のこと。
ただ遊びに来たと言うのではなく、俺と同じく留学という形で長期滞在すると言うことを知って大層驚いたのは記憶に新しい。
というか今でも驚いている。
てっきり星ヶ丘寮に入っているのかと思いきや、星ヶ丘教会のシスターが管理している館に下宿しているということを知って更に驚いた。
息子のことを何よりも大事にしているレイの両親がよく許したなと思ったが、信仰に篤い善良なシスターが管理しているということと、館が元外交官のもので建物や庭などがそれなりのものということで了解が取れたようだった。
そしてその館の庭園に招かれ、薔薇と幻想生物の彫像に囲まれながら久々に幼馴染と一緒に茶を飲むことになったのだが。
「本当に恋愛は人を変えるね」
「ぶっ……!?」
最近の出来事を頭の中で整理しつつ紅茶のカップを口に付けた所、レイが不意にとんでもないことをいうので思わず紅茶を噴きかける。
「ななな何言って……っ」
「だって彼女のこと考えてたんでしょ?薔薇のお嬢さんのこと」
「……なんでそう決めつける」
「なに言っても無駄な抵抗だよ。顔にかいてあるもん」
レイはにこにこと無邪気に笑ってそう指摘すれば紅茶に口をつける。
思わず俺の口からは溜息が洩れ、頭を抱える。
「そんなに解りやすいか、俺は」
「うん、すごく」
正直な幼馴染の即答に更に溜息が漏れる。
本当にどうしてこうなった。
自分はもう少し理性的な人間だと思っていたのに。
いや、そうだったはずなのだ、少なくとも英国にいた頃は。
それが、変わってしまった。
シナリオ「Sweetnessをさがして」(http://rakkami.com/scenario/guide/276)後日譚。
桂木MSには心より感謝を。
SSの舞台はコミュニティ「蔦薔薇の館」様(http://rakkami.com/community/detail/273)お借りしました。