その日はこの地域では珍しく、朝から小さな白い贈り物が空から降ってきた。
子供達はそれを珍しそうに手にとっては、はしゃいでいる。
でもその声は、まもなくして悲鳴染みた声に変わっていた。
横たわる少女の身体、身体から赤が流れる。
その冷たい肌は、雪のせいじゃないって知って。
紅白混じった雪面は、次第に赫に染め上げる。
【嫌だ…こんな、なんで…!】
目が潤んでいく、抱えた手が震えて。
群がる人の目と、目の前の現実に思考が歪む。
「お前のせいだ」
咄嗟に聞こえた静かな怒り。
思わず私の身体が震えた。
「お前のせいであの子は死んだ」
自分の手を眺める。
そこにあるのは、あの子が生きていた赤い痕。
あの子の身体は、既に消えていた。
「将来有望だったのに、自殺だなんて」
「お前があのまま傷ついていればよかったのに」
「お前とあいつじゃ、住む世界が違うんだよ」
【違う!私はただ…!】
私の声は、誰にもとどかない。
声を荒げたって、必死に伝えたって、皆にはキコエナイ。
「俺達の女神を返せ!」
「なんでお前は生きてるんだ!」
大群連れた想いの声は、重く私を苦しめる。
耳を塞いでも、拒んでも、心に向かって突き刺さる。
息も出来ずに、泣きそうになる。
【…助けて。助けてよ…】
涙ながらに私は懇願する。
そこにはいない誰かに向かって。
「駄目だよ。これは貴女への罰なんだから」
【――あ】
ふと、誰かの声が聞こえ
そして、私は――――――
「…っ!!」
瞬間、身体を飛び起こすかのように目を開けた。
目の前に一番に映ったのは、いつものベッド。
辺りを見渡せば、そこがいつもの寮の部屋である事に気付く。
【あれは…夢、だったのでしょうか…?】
なんて生きた心地のしない夢だっただろうか。
息が乱れ、妙な汗が体中から吹き出ていた。
起きて早々の小淋には、深い溜息しかつけなかった。
しばらくして息は整ったものの、まだあの夢の光景が稀に脳裏をよぎりそうだ。
少し考えただけで、もう涙が出てきそうだった。
【…どうして…今にもなってこんなに苦しい…】
頭にいつもつけているチェック柄のリボンを手に取り、そっと胸に寄せる。
私はまだ許されていないのか?
私はまだ弱いままなのか?
―――答えがあるなら、誰か教えてよ。
答えの無い自問自答にただ涙を一筋、流していた。
暗闇の中、パジャマを抜いてすっかり汗だらけになった体を拭き、
相部屋で一緒に寝ている相方を起こさないように、そっと制服のシャツに袖を通す。
【気分転換に、少し外にでも出てみましょうか】
制服に着替え、静かに彼女は夜の外へ足を運んだ。
少しでも今日の悪夢を忘れられるなら…そう願いながら、月明かりの夜道を散歩するのだった。