不思議な経験だった。
戦争映画みたいな世界の中に迷い込んだあの出来事。
けれど、不思議と怖いと思ったことはなかった。
だって、隣りには好きな人がいるのだから。
不敵な笑みを浮かべて、難しそうなことを余裕そうにこなす彼がすごくかっこよかった。
あの人と一緒なら、どこまでもいけそうな気がした。
最後は銃弾に倒れてしまったけど。
あの瞬間、手を握り返してくれたことが、なによりも……嬉しかった。
あの世界から帰ってきた私は、やりかけていたアレンジの制作に戻ろうとして、……親から持たされたスマートフォンから着信メロディーが流れてきたことに気づいた。
特定の人からの着信音……彼からだと告げる音。
慌てて取って内容を見る。……あの人も、無事に戻ってこれたようだ。
『大丈夫だったか?』
その一言にすごく安堵を覚えた。
大丈夫だよ。と即座に打ち返して送信する。
よかった……。
学校にいったら、あの人に会えるよね?
早く、会いたいよ。
★
インターフォン越しにあの人を見た時には、これは夢の続きだったのか?と一度自分の頬を小さく抓ってみる。
よし、痛い……夢じゃ、ないんだ。
あの人はまさに走ってきたとばかりに呼吸を荒げている。
会いたいと思ってた人に、出会えた喜びは、とても、表現できるものじゃない。
「よぉ、赫乃……いきなり押しかけてすまない」
「わ、わ、……今、開ける、よ」
どうしよう。
今の私は、きっとすごい顔をしている……けど、それ以上に、嬉しい。
慌てながら玄関に向かうと、彼と……シグレさんと出会った。
その時の私はすごく大胆だった。
だって、迷わず飛び込んだのだから。彼の腕と胸の中へと。
「赫乃……?!」
「………よかった」
いつもの、香水と画材と紅茶の匂い。
そしてなにより、温もりがそこにあった。
★
赤い薔薇の花言葉が、よぎった。