ダンシングで人類愛な祭りの準備｜リアクション

ダンシングで人類愛な祭りの準備

【ダンシングで人類愛な祭りの気配〔桜月の場合〕】

　桜月もまた放課後に祭りの近づく空気を感じた。

「そうか。もうすぐ文化祭か。どうりでなんだかみんな浮ついているように見えるわけだ」

　他人事のように言う彼女も寝子祭に興味がないわけではなかった。

「私も何か店を出してみようかな」

　ふとそんなことを考えてみる。
　が、店を出すにあたり、彼女には避けては通れない問題が一つあった。

「日中は外には出られないから学校の中でできることがいいな」

　月は生まれつき色素が薄く太陽の光に弱かったのである。
　しかし、それならば、日中外に出なくてもいい店を考えればいいだけのことだ。

「どうせやるなら、楽しいことがいい。ただ来てくれた人の服を考えるだけ、というのは少し違う」

　腕を組み、小首を傾げて、ぼんやりとした発想の輪郭を少しずつ確かなものへと変えていく。

「なら、来てくれた人をモデルに服をデザインし、その服にあわせて物語風の絵を描くというのはどうだろう。そして希望者がいれば有料で服を作る……。私一人じゃ無理だけど、あの人に協力してもらえればいけるかも」

　今度話をしてみようと決意しつつ、月は廊下をゆっくりと歩きながら、何度も何度も自問自答を重ねて、アイデアをかたちにする。
　ついでに職員室に足を運び、実行委員顧問である久保田美和教諭からも少し話を聞いてみる。

「服といえば寝子高の頂点を決するミスコンよね！　水着審査もアリでみんな衣装に気合入れてるみたいだから、話を聞いてみればいいと思うわ！」
「……ミスコン、ですか」

　やけに熱っぽく語る美和に若干気圧されつつ、みんなにどんな衣装を着るのか話を聞いてみようと思う。
　そうして、あれこれ考えているうちになんだか妙に浮かれた気分になってきた。

（きっとこういう気持ちがたくさん集まって、さっき感じたような空気をつくりだしているのだろう）

　一つ、また新たなやる気を充填しつつ、そうして桜月は放課後の校舎を後にして部屋に戻っていくのだった。