仲良くなりたい｜リアクション

仲良くなりたい

☆吉田熊吉

　授業時間、桜崎巴は屋上にいた。
　持参した本を広げているところで、背後から声が響いた。
「誰か屋上に居るのかぁーっ？」
　声の主が吉田熊吉先生であることは、振りかえるまでもなくわかった。
　巴は事あるごとに授業をサボったりやんちゃしたりして鬼熊に“お世話”になっているのだ。
　どうやら巴は、すっかり熊吉先生に要注意人物としてマークされているらしい。
　慌てるでもなく巴は肩をすくめる。
「やれやれ、望むところだがね」
　巴のところへ駆けてきた熊吉は、いつものように怒鳴る。
「桜崎、またお前か。授業はちゃんと出ろ、このバカタコが！」　
　巴は黙って、開いていた本を吉田先生に見せた。
「なんじゃこりゃあ」
　ずらりと並んだ英文に、吉田先生の目が点になる。
「サボる生徒の読む本といえばマンガか雑誌の類、と思い込んでたかい？　今日は英語の授業をサボって英英辞典をp300からさ。正直授業よりよっぽど役に立つが……鬼熊はこれを止められるかい？」
「……勉強するなら教室でしろ。担当の先生が心配するだろうが」
　吉田先生は渋い顔になった。
「鬼熊は何も生徒が憎いわけじゃないって事は知ってるさ。だが真に守るべきは規則の先にあるものだって事を忘れると、人は形式的法治主義に陥る。だからあたしは規則を破る」　
　楽しそうに巴は言う。
「屁理屈を……難しいことを言って煙に巻くな」　
「はいはい、あたしの仕事は十分だから、とっとと逃げ出すとするよ」
　釈然としない顔の吉田先生を残して、巴は駆け出していった。
　
　