もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

　――ぎぃんっ。
　重く歪んだギターの音が鳴ったように、空間が凍てついた。

　優芽のろっこん。『女帝の眼』。
　自身の存在を、対象の尊敬や敬愛を得る存在であると、認識させる！

　聖帝！　女王！　魔人！　魔法少女！　（食べられちゃったけど）王者！
　ここにさらに伏兵、女帝が誕生した！

　混乱の極みであった一同が、冷静さを取り戻す。

（よかった……喧嘩をやめてくれたのですね……）

　――そうだな、此処では、他の者を巻き込む。
　――決着は、自分たちでつけよう。

●
　優芽は顔を上げる。
　喧嘩をやめてくれたのでは、なかったのか？

　優芽のろっこんは、無差別に服従を迫らせるものではない。
　冷静さ、他人への崇敬の念を呼び起こし、自分への誇りを取り戻させる。
　他人を力で屈服させることを嫌う、彼女にふさわしい力だった。　

　敬意。力弱き者には、絶対の服従。
　だが、力ある者は、己のプライドを思い出し、誇りを取り戻す。

　――戦いの中でしか、分かりあえない存在。
　
　いつのまにか、ドングリの精を引き連れた修が言う。

　――いや、そうではなく。

「たぶん、ケンカするほど仲がいいってことじゃないのかな」
　修の言葉に、優芽もうなずいた。

　そういうことならば、楽しくバトルして、そのあとフルーツフレンドになればいい。
　
「食べたかったのでしたら、そう仰ってください」
　はい、どうぞ。リンゴ・スタージンガーはそう言って、被り物の一部を皆に与えた。
「美味しさは、食べずしてわかるものではないので……」
　フルーツフレンドの一同から、おいしい！　の声が上がる。
　酸味の中に、さっぱりした甘さがある。香しい馨りが立ち上る。
　太陽の光を凝集したような、鮮やかな林檎であった。
「Wow……うれしいです……有難うございます……」
　言葉が涙に濁る。被り物のリンゴから、滂沱の涙があふれ出ていた。
　同じく林檎の謡と感動を分かち合おうと、肩を叩く。

　代わりに一同からもらった果物を受け取り、リンゴは戦いの地に赴く。
　彼もまた、戦士であった。

　その背中に、フィーナが声をかける。
　――生まれはどこだ？

　リンゴ・スタージンガー。名前から察するにイギリス人。リヴァプールっ子であろうか。
　同じ英国人として、話しかけずにはいられない。

　リンゴは笑って答える。
「信州です」
「……」
「長野です。高速ができて便利になりました」
　まさかの中部地方に、一同が茫然となる。
「果物は、みんな違ってみんないい！　ですが」リンゴはそういって、さわやかな笑顔を見せた。「林檎はやっぱり『シンシュー』産、ですよ！」