もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

　桃原空音は、原稿を描いていた。諸述は省く。

　濃やかな翳を、筆で丁寧に撫でつけていく。
　慎重極まりない作業だ。恐ろしい集中力を要求する。
　高い集中を、長時間にわたり継続するには、雑念の力が必要。
　というわけで、空音はおびただしい雑念で頭を満たしていた。

（ヴォー……。原稿作業中は、バナナのことで頭が頭が一杯なのだ。

　……男の子の、バナナ……）

　ーーそして、塗られた翳の漆黒が、まるで夜のように広がり、空音を飲み込んだ。
　ぽかりと彼女は闇の中に放り出される。

　彼女の鼻に匂ったのは、爽やかな南国の果実の香り。

（バナナだ……）朦朧とした頭で考える。

（頭を使ってたから、なんだかお腹が空いてきたなぁ……）

（……って、異世界だ！）この手の怪異になれた彼女は、はっとひらめく。

　無明の闇が再び彼女の前に広がり、そして彼女の姿はどんぐり農園にあった。
　その頭部には、黄金色のバナナ。
　バナナ人間ーー進撃のバナナ魔人として化生した空音。
　その瞳が怪しく煌めく。

　腐女子として名高き彼女。
　直前まで男の子のバナナで頭をいっぱいにしていた彼女。
　妄想ゲージは満タンであった。

　見れば眼前に、横たわる獲物……雅人の姿。

　－－そうだ、あたしはバナナが食べたいんだ！

　じわりじわりと、空音は息を殺して、獲物ににじり寄る。
　瞳は貪婪の炎に猛り、熱い呼気が炎のように揺らめく。

「雅人くん、そのバナナちょうだーい！！」

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