歴史探偵　７枚の写真編｜リアクション

歴史探偵　７枚の写真編

●御剣刀
　キャットストリートを後にする御剣刀はエノコロ岬を目指していた。
　時間いっぱい探したものの、商店街の写真とキャットストリートの共通点は結局１つも見つからず仕舞いだ。
　エノコロ岬に辿り着くと早速灯台の屋上へ移動した。ここは海の眺めが最高の展望スポットでもある。
　目の前に広がる大海原。空はどこまでも高い。その２つの境界線は遥か彼方の向こう側だ。
「相変わらず、見晴らしが良いな」
　手にした写真を海にかざしてゆっくり退っていく。刀は写真と同じ構図となる場所を見つけ出した。
　携帯端末を手にしてカメラを起動する。そこに立っていたであろう男女を思い浮かべつつ彼は同じ構図となるようシャッターボタンを押した。

　イソラ・ガレッジャンテには多数のヨットが停泊してある。
　桟橋の上で刀は写真とにらめっこ。あらゆる角度から構図を見比べるもののどれも当てはまらない。
　まあ普段は縁がない風景をじっくり見れただけでも良しとすべきか。それにしても寝子島シーサイドタウンから歩き始めて既に２時間を迎えようとしている。時刻にしてお昼時だ。一度空腹が気になるとどうも体が落ち着かない。
　そんな状態で刀はステッラ・デッラ・コリーナへと辿り着いた。オープンテラスのレストランから鼻腔をくすぐる香りが漂ってくる。空腹には物凄く辛いものがある。
　ヨットと海が並ぶ光景があるのは確認した。しかし構図的にはテラス席から撮影されたものである。無論スタッフが目を光らせているため食事をせずに立ち入るのは難しそうだ。
　妥協として刀はテラスの傍らから写真を撮った。そして急ぎ早に星ヶ丘駅へ向かう途中のコンビニに立ち寄る。
　刀はゼリードリンクの栄養補助食を口内へと押しやった。

　寝子島駅で刀は電車を降りた。その足で寝子島魚市場へと向かう。
　到着した時には朝市は既に終了した後だ。それでも独特の魚臭さだけは残っていた。
「まあ、な。こればっかりは」
　おおよその位置を割り出して写真を撮影。彼は九夜山を目指した。
　道中はロープウェイを利用する。俯瞰視点で眺める登山道は実に新鮮である。そして山頂に到着するのもあっという間だ。
　発着場を出た刀は早速千年杉を目指して歩く。
「相変わらず、だな」
　鬱蒼と茂る道を抜けたその先に千年杉は佇んでいた。刀はその幹に手を当てる。
　天高くそびえ立つ千年杉は島のシンボルの１つである。写真を見る限りその事実は今も昔も変わらない。
　ある程度同じ構図となる場所で刀は写真を撮影した。再び彼は九夜山頂上展望台へと向かった。
「いよいよ三夜湖で最後か。ここはいつ来ても良い場所だ」
　絶景スポットでもある展望台は人で溢れかえっていた。ロープウェイで手軽に移動できる事も人気の１つだろう。
「さてと」
　だが刀は展望台の外へ出た。何を思ったのか彼は三夜湖の畔まで移動する。
　刀には写真の光景に覚えがあった。それは彼が湖の畔からいつも見ていた風景だ。展望台から写真を撮影すれば確かに風景を一望したものが撮れる。しかしあくまで三夜湖を見下ろした写真にしか過ぎない。三夜湖と空、そして山の峰々を全体的に収めようとするならばどうしても畔からの撮影は外せないのだ。
　現に彼が立つ場所は写真と同じ構図であった。
　結局写真の男女に関する情報は得られないままだった。訪ねる相手が悪かったのか場所が悪かったのかはわからない。
　記念すべき最後の１枚である。改めて刀はそこに立っていたであろう男女の姿を思いつつシャッターボタンを押した。
　不意に一陣の風が駆け抜ける。風に揺られて枯草が空へ舞い上がる。刀はただそれを見届けた。

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