「反省してるか？」
　乱入した高野 有紀先生の素晴らしい行動力で事態は収束。
　兄と妹は仲良く正座をさせられているのでした。
「「ハイ……」」
　妹は完全なるとばっちりなのだが、兄を止められなかった責任があると自覚して。
　きっちり怒られた後は、程々になと先生も笑ってお終い。
　小星はせめてもと、混乱させたアルパカたちに自らのろっこん――アタシのココロをそっと発動。
　兄とは反対に幸せな夢を見せるもの。
　アルパカたちの表情は穏やかになり、自然と二人の傍に集まってくる。
「兄様！ もふもふ沢山デスヨ！」
「我很开心啊！」
　彼らの国で喜びを表す言葉。
　恐怖よりも、幸せ。
　それが満ちればもふもふ王国は成立するのである！


「ワタシ学校の遠足って初めてだワ、だからとっても楽しみナノ！　牧場で何が出来るカシラ…楽しみネ、五月チャン！」
　牧場に到着からの触れ合い広場までの道。
　お喋りしているのは太陽にも負けない笑顔の御薗井 セレッソ Eと落ち着いた雰囲気の薄野 五月。
　楽しみなのは二人共一緒、そんな二人が動物たちの姿を目にすれば、
「行こウ！ 五月チャン！」
「……うん！」
　その手を引っ張って、早くと。
「もふもふしてるのがアルパカ？　とってもカワイイのネー」
　そっと手を差し伸べて、はっと気がついて唾へ警戒するも……大丈夫らしい。
　じーっと眺める。
（この子のもふもふしてるところ……パーパにちょっと似てるワ）
　義父のことを頭に描きながら、セレッソはアルパカを撫でる。
　その隣で五月も同じく見つめたり、もふもふしたり。
　嫌がられることもなく、訪れるのは至福のひと時。
「……ふふ、」
　至福につい漏れる幸せのこえ。
　五月とアルパカの様子を見て、それぞれの瞳がキラキラしているのにセレッソは気付いた。
「黒い瞳だと見ているモノがキラキラ。だからワタシ、アルパカも五月チャンもウラヤマシーって思うノ！」
　直接伝えるにはちょっと、恥ずかしいけれど。だって思うものは仕方がない。
「セレッソさんも髪がふわふわしていて、とても可愛いですよね」
　羨ましいです、と五月も笑う。
　アルパカのもふもふも魅力、けれど互いのいい所が見えるのも素敵なこと。
　そんな二人を見ていた恵御納 夏朝もとなりでうずうずと。
　すごいなぁ……と目はキラキラ輝かせて。
「沢山いる……すごく、ふかふかしてそう……！」
　餌をあげる所から始めてみて、掴みはok。
　失敗しないように、近くに居た飼育員さんに質問幾つか。
「どこを撫でてあげたら喜びますか？」
「あ、じゃ一緒に触ってみましょうか」
　飼育員さんがにこりと笑みを返してくれる。
　ここですよ、なんて説明の難しい部分を教えてくれたのだ。
　毛並みに顔を沈ませて、もふ、もふ♪
「わぁ……」
　感動は声にならないけれど。でもとっても気持ちよくて、もふもふなのである。
　花厳 望春もまたもふもふを求めてきた内の一人。
　自分の身近にはシキさんという名前の鷹しか居ないため、牧場の動物たちは新鮮なものだ。
（シキさんはもふもふしてないからなあ……というか、触ろうとすると怒られるんだよね）
　プライドが高いのか照れ屋なのか、彼の鷹は余りコミュニケーションを取ってはくれないらしい。
　だからこそ、もふもふへの夢も膨らむというものだ。
（アルパカとかモルモットとか、なんでこんなにもふもふしてるんだろ）
「……さ、触ってもいいんだよね？」
　隣で聞いていた飼育員さんが頷いてくれる。
　そっと触れればもう、そこはもふもふの領域！
「うわあ、すっごくもふもふしてる！！」
　もふもふ、もふもふ。
（一日中もふもふしていたい……）
　触れて数分、既に完全な虜となったのであった。

　寝子島高校ホスト部が掲げる本日の名目『ホスト部出張版』
　つまり校外学習で女の子を女の子をビシッとエスコート（ナンパ）していこうぜという試みである。
「準備はいいかい？ 信彦くん」
「任せなよやしろん、ホスト部の力見せないとね」
　八城 昌也の隣で頷く八十八旗 信彦の目がキラリと光る。
　そうホスト部の名目にかけて、女性の視線を取り戻さねばならないのである！
　ケモノたちに負ける訳にはいかない。
　昌也が隣を見れば信彦の姿はもう隣には点線状態――つまり、もういないのだ。
　目線の先で早速、女の子に声をかけている様子が見えて。
　……流石のスピードである。
　昌也も辺りを見て一息零して。
　彼の今日のモットーは『動物達を愛でながらも本当に愛でるべきは女の子！』
　もふもふへの対抗心も忘れては居ない。
　視界に飛び込んできたのはぼんやりとした雰囲気に茶色の天然パーマ。もふもふと戯れる夏朝の姿だった。
　昌也のターゲットも決まった、さてと一歩踏み出した、その時！！
「お、おおお！？」
　突然のもふもふたちの襲来！
「もふもふが俺を襲ってきたぁ～」
　ふわふわ、もふもふ、もっふ。あっという間に囲まれている。
　どうやら彼は女の子の前にもふもふたちの心をその身で掴んでしまったらしい。
　まるで芸能人に群がるファンを見ている気分である。
　夏朝の姿も見失ってしまうも、やっとの事で逃げ出すことも出来たのだが……。
　なんともふもふたちはその後をついてくるのだ！
　まるで大行進。その余波に巻き込まれたのがもふもふの虜と化していた望春。
「うわ、わ！？」
　一匹で満足していたはずなのにこれはもはや波である。
　流される、流されるのだがもふもふは減らない、むしろ増えている！
（あ～あ、召喚できるのが鷹じゃなくてウサギとかモルモットだったら癒されるのになぁ）
　そんな事を流されてる最中もそんな事を考えてしまうくらいには。
　もふもふ、魔性の魅惑。
　しかし、彼は感じたのだ。どこかからの射抜くような視線を。
「…………あ、いや、シキさんも十分魅力的です。ほんと、ほんとです」
　はっとして弁解してしまうのだが、視線の主は見当たらない。
　そうして気がつくのだ。自分が思い浮かべた視線の主がここに居るはずがないということに。

（……シキさん普段は九夜山にいるから、ここにはいないはずなのに……）

　むしろ自らのろっこんを用いてやっと…の筈なのだが。
　んん？　と首を傾げる望春。
　やっともふもふの波が去れば自分を見ている人がいることに気がついて。
「あの……シキさんて、うさぎさん……？」
　たまたまもふもふの波を近くで見に来た神崎 昴であった。
　倒れまだ起き上がっていなかった望春にそっと手を差し出している。
「ん？ あ、シキさん？ 兎じゃなくて――」
　鷹であることを説明すれば、おぉと昴の眠そうな目が少し輝いた気がした。
　昴の手を取って起き上がった望春はお礼をひとつ。
　自分の実家にいるうさぎの話と今ココには居ない鷹の話。
　少しは惚気あいになりつつも、大切な存在を再実感すれば、また心の温かい話。
「あなた達、生物が好きなのかしら？」
　その話にそっと声を掛けたのは神野 美野梨だ。
　生物部員として観察することに時間を費やしていた彼女。
　今も糞のチェックをしたり、動物の姿を携帯で写真に収めていたりもしたのだが、気になる話題がふと耳に飛び込んできたから。
　美野梨の率直な質問に二人はこくりと頷く。「好き」と。
　あんなにも自分の身近な動物たちの話を出来る人たちだ。
「もし良かったら――、」
　『生物部』へ。そう誘ってみるのもいいだろうか。

　もふもふの暴走、大群、そして近くのやり取りたちを初島 優と桐生 計都は同時にシャッターを切っていた。
　響く音に視線を合わせた二人はくすりと表情を緩ませる。
「ねぇ、桐生君はどんな写真とったのー？」　
「あ、えっと……」
　まだうまく言葉は出てこないけれど、共通する写真の話題で少しの間盛り上がって。
　――そういえば、もふもふ波の張本人はどうなったのだろう？　　
　二人は同時に「あ、」という声を上げた。