寝子中同窓会！｜リアクション

寝子中同窓会！

○同窓会スタート

「えーと、つまり！　皆さん、今日は昔に帰って、思い出を楽しく語り合いましょう！」
　お好み焼き屋『うさぎ屋』の店主宇佐見満月は、卒業生代表挨拶をなんとか締めくくって壇上から降りてきました。
　十分準備はしたつもりでしたが、檀上に立って下を見下ろしたら頭が真っ白になりました。
　けれど持ち前の度胸でなんとか乗り切ったので、心からの拍手が起こったのでした。

「だからあたしゃこんな大役嫌だって言ったんだよ、しむヤン！」
　優しい笑顔で拍手してくれていた志村先生に、満月はいつもの調子で話しかけました。
「……おっと、志村先生、志村先生っと。あはは、卒業してもしむヤンの前じゃあ昔が出ちまうねぇ」　
「いやいや、いい挨拶だったよ。おつかれさん」
　満月に向ける、その昔のままの笑顔に安堵して、満月は先生にビールを注ぎます。
「にしても、不思議な話さねぇ。学年またいで、トラブルの仲裁を買って出ては力尽くで収めて青タン作っていたあたしに書道の道を勧めてくれたのは、しむヤンだったもんねぇ……」
「正直、あれだけ上達するとは思ってなかったぞ」
「顔真卿だの虞世南だの、全くわかんない名前を出されてあの時は面食らったモンさぁ。
……あの時に貰った書道字典、まだ大切に使っているさね」
「剛気と重厚さにあふれた書の顔真卿、君子の書と称された虞世南だな。書は心を落ち着けてくれる」

　昔を懐かしんでいた満月ですが、ふと真顔になっていいました。
「ああ、そうそうしむヤン。ウチの姪っ子も、お世話になったねぇ」
「ああ……」
　志村先生には誰のことかすぐわかったようです。
「退職直前だってのに、厄介な話をお願いしちまって……裁判で姪っ子の親権を取る為だったとはいえ転居・転校したのを知られないようにして貰ったり、
不登校状態のあの子に、外部支援施設を紹介して貰ったり……寝子高受験の時もホント、お世話になりました」
　バッタのようにお辞儀をする満月に、志村先生は止めるように手を振って言うのでした。
「いやいや、私はそんな大したことはしてないよ。大変だったねえ。彼女元気にしてるかね」
「ああ、今は愚弟と一緒に高校生活満喫中さ……怖くてまだ来られないからって、これを預かってきてるンさ」
　満月はバッグから綺麗に包装された包みを取り出しました。
「あの子が作った、ブックカバーさね。『しむヤンは小説読むのが好き』って言ったら、あたしに教わりながら、必死に作り上げてたんさ。貰ってくれるかい？」
「ああ、もちろん」
　志村先生は、包みをそっと開きました。
　グリーンのブックカバーは、手作りであることが明白な縫い目で、それでも確かに一生懸命作ったことがうかがえる味のあるものでした。
「上手いもんじゃないか。ありがとうと伝えてくれ。大切にするよ」
　そして何か言いたげな顔になりましたが、それを抑えるように続けました。　
「……私にできることがあるかはわからないが、何かあったら相談してくれ。いろいろつらいだろうが、災い転じて福と成す、となるといいね」
「ああ。……やっぱりしむヤンだねえ」
　事あるごとに最後にことわざや名言を言い残すのが、しむせんの十八番だったと、満月は思い出すのでした。

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