●フードコートでおやつターイム☆

　お腹がァ……すいて仕方なァアァ～いィ……
　お腹がァ……すいて仕方なァアァ～いィ……

　カピバラさん達を追いかけていると、お腹が減る。
　ランチタイムで、親子連れやカップルが訪れ易い頃。
　野外のテーブルテラスで、そこそこ人が集まって食事をしている所に、おっとり雰囲気の熊吾郎と伊藤 佳奈が、その一角で林檎と食パンを食いしん坊カピバラさん達に食べさせ、優しく撫でる姿があった。
　傍から見ると、何て和やかな動物ふれあい風景だろう。
「実家の牧場に居る牛や馬って毛が少ないから、それなりだったけど、この感じはいいですよぅ」
「少し硬いけど、毛艶は良くて気持いいよね！」
　丸いお尻ふりふりしている姿を佳奈が撫で消すと、ササーっとカピバラさん達は散って逃げ、またジリジリと熊吾郎の林檎欲しさに近付いて来る。
　これの繰り返し。
　喰ってんのに、邪魔すんなよぅ。と、歯を剥き出して威嚇する子も居るけれど。
「何だか子どもみたいだね」
　ふふっと佳奈が笑う。

　ハンバーガーランチをトレーに載せた御鏡 聖は、少し心が弾んでいる。
　白のワンピースにストールを肩に羽織り、普段は食さないハンバーガーに「たまには食べてみたかった」と照れて笑う。
　空いた席に座り、楚々として頂こうとした所、目の前にドスンっと、でっかい顔が。
　は、はい───ッ？
　瞬間、宙に舞ったハンバーガー。
　空中分解する前に、スマートなカピバラさんが頭でトス。
　続いて、さっと脇のテーブルから飛び上がったスリムビューティさんがアタック。
　最後の聖が座る椅子の下をくぐり抜け、スカートをはためかせたメタボさんが口でキャッチした。
「か、返して下さい！」
　立ち上がりかけたものの、翻ったままのスカートが椅子に引っ掛かって、すてーん。
「……なんなんですか～もう！」

　わ。　きゃー！　どわーっ！！
　あちこちのテーブルから悲鳴があがった。
　もっともっと数が増えて、美味しそうな皆のランチを掠め取り始めたのだ。
　別のテーブルに置いていた佳奈の豪華３段重ね重箱の包みも狙われた。
　おいしそーおいしそー。
　佳奈の大好物の唐揚げ、お母さん特製の出し巻き玉子。
　あれよという間に、重箱から飛び出し、気づいた佳奈が「あーっ！！」と悲鳴をあげた。

　しかし、その茶色のやんちゃ子の群れに「あばばばば」と、がっついている子が出現。
「てめェエ～　あゆむの喰い物を横取りしやがらないでぐだざいでありまずゥウ！」
　よく見ると女の子。茨姓 歩が混ざっていた。
　身を沈めて威嚇するカピバラさんと鼻を突き合わせて同等に張り合っている。

　えええええええ？？！

　ね、ねずみの喧嘩みたい。歯と牙を互いに剥き出し、唐揚げ取り合い、速攻で噛み付こうとする。
　水かきと爪。俊敏と飢餓。
　勝ったのは、カピバラさんのお尻を丸齧りした歩の方だ。
「「きゃー！　待って待って待ってーっ！！」」
　佳奈と聖が歩を止めた。
「ゥー。ごいづ食べだらダメでありまづが？」
　お尻に歯型が付いて、ぴーぴー泣いているカピバラさんを聖が抱きかかえて、「ダメです！」と、なでなでして消えて貰った。
　どうせ消えるなら、美食倶楽部の一員として食してみたいと、指をくわえて物欲しそうに見つめる歩に、ちょっと可愛らしさを感じつつも、「　ダ　メ　」と、佳奈と熊吾郎が宥めた。
「じゃあ……そふとくりーむというやづで手をうつでありまず」
　
　歩が買って貰ったソフトクリームを大人しく舐めている間、増えたカピバラさん達の追っかけが続いた。
　たまたま、動物園オリジナルウキウキお菓子袋を買いに来た七音 侑も巻き込んで。
「あー！　うにに……よくも買ったばかりのウチのお菓子を……待てー！」
　破れたお菓子袋から、トラさん、ワニさん、キリンさん♪　が顔出した。
　あ、このコ、好き好き♪
　このコ、好きー♪
　カピバラさん達は好きなコ選び、捕まえようと飛び掛った侑の手を、ひょいひょいすり抜け、聖がさっき座っていた椅子にぽてっと座って、もももーと食べた。
　ぐ、ぐぬぬぬ……。
　追いかける。
　駆け出した所で、きききーっと急停止。
　フェイント狙い、体反転して捕獲。
　なでなでなでーっ。

　どったんばったん繰り返して、やっと最後の１頭を、熊吾郎が撫でて終わった。

　佳奈が地に吸い込まれるように膝をついて、呟く。
「つ……疲れちゃった……」
　おつかれさま！


●つまり……カピバラさんホイホイキルゾーン

　……という訳で考えたのだ。のだ！
　どーん。
　体力に自信がないと嘯く嶺はカピバラさんを誘き寄せ、骨抜きな所を一気にさわさわする計画を立てた。
　後先の事は、勿論考えて居ない。

　カピバラさんは闇雲に追いかけても埒が明かない。
　キルゾーン構築に該当する場所に、フラミンゴの池をピックアップ。皆の散開に並行し現地を確保。且つ潜伏し、カピバラさんのケツを狙う。
「ケツは奴等の急所……たとえ大勢が押しかけたところで、最初のひと触り目で、もうなすがママきゅうりがパパの筈だ」
　そして片っ端から、シャバドゥビタッチ。ぃやっふー♪
　決してサボって楽したいだけではないのだ。のだ！
「よし。この事を誰かに報告するのだ！」


●ウサギさん、カモーン！

　ふれあい広場に、【ウサギ抱っこ、毎日開催】の看板が立っていた。
　そそくさと、小学生の子ども達が足早に去っていく。
　さっきから行梨 謡が地に伏せ、ウサギさん達をガン見する幸せな時間を過ごしていたからだ。

　新鮮な人参をお口でむぐむぐする姿、きゃわわ♪
　綿毛でふっくら包まれた脚、きゃわわ♪

　ぺろぺろちゅっちゅな視線を飛ばし、どの子に声を掛けるべきか、メガホンを転がしまくっている。
　そのひと声、九夜山級のハードル！
　いい加減、ウサギさんの方が疲れて、ぷるぷるし始めた所で、
「この場所にはナニカが居る！」と、斜め上方向で、我に返った。
　その時、偶然にも見えない気配が丸太の柵を越え、侵入して来たけども。
　そうだ。
　ウサギさんは、この何かに怯えているのであって、決して『えー、このぺろぺろちゅっちゅな視線をバッシンバッシン飛ばして来るニンゲン（オス）キモーイ』とか思っていた訳じゃないんだ純真なウサギさんがそんな酷い事を思う訳がなかったウサギさんマジ天使！！
「おのれ。にっくき透明カピバラ。お前の正体はナマモノだ！　俺のきゃわわウサギさんを恐がらせ、あまつさえ俺とウサギさんのきゃっきゃうふふに水を差すとは断じて許せん！　ウサギさんは俺が守る！」
「ちょー忠告していいかの。ニンゲン（オス）の行梨君」
　通りかかった都が遠巻きから挙手をした。

　カピバラは『３回なでなで』すると消えるんだがの。

「俺はふわもこを味わうこの至福の手をカピバラの剛毛で上書きされたくない、したくもないのだが」
「意見が合うの……」
　──お前がやれよ。

「あー。２人とも！　さぼっちゃダメ～～っ☆」
　沈黙で視線をぶつけ合う２人の間に割って入った月子は、長い尻尾を両脚に挟んで丸まるレッサーパンダのパンコちゃんを抱っこしていた。
　ドサクサに紛れて、連れ出しちゃってるよッこのコ！
「だって、カピバラさん達にイタズラされて月子、困ったんだもん☆　あーでもカピバラさんもかわいい～」
　しかし、ここでは問題アリ。
　透明さん、見えない！
　足下に透明さん達が集まり、とすとす軽くタックルされて、もみくちゃ状態。
　徐々に３人の足場が追い詰められ狭くなる。傍らの足下に、ぷるぷる天使達。
　これ絶体絶命じゃね？　の３人の前に救世主（？）が現れた！

「あー！　マイケルちゃんだ！　ねぇねぇ、何してるのっ？　もふもふ？」
　あちこちの動物ちゃんをわさわさして、ご機嫌な芽莉依が、謡にぶんぶん手を振って近寄って来た。この出現にカピバラさん達の行動が変わった。
　お得意の頭突き。水かきぺっちん。（ニンゲン（オス）限定）
　目の前で天使を奪い、背中によいしょと乗せ、一団となって逃走し始めた。
　あーれ────っ。
「ウサギさん！　俺は百年経っても、キミしか見えていないからぁあああ！！」
「あーはいはい、あーはいはい」
「ほぇー、私もウサギちゃんと透明カピバラちゃん、もっふもふしたかったのに～」
「月子も～」

　ウサギさんウサギさん、今会いに行きます！！　愛しています！！
　謡は都達から離れ、弾丸疾走で、人混みを割って走り去った。