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寝子島高校
東風吹かば陽炎燃ゆる
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『寝子島街道スプリングウォーク』なる催しである。参加者は寝子島大橋のたもとより出発し、寝子島街道を横断。寝子島の雄大な自然、木天蓼湾の寄せては返す波の壮観、そして郷土愛を胸に歩き通し、ゴールとなる星ヶ丘駅を目指すのだ。
「ふぅ……」
歩き始めだが
椎井 莉鳥
の胸は早くもいささか弾んだ。高校時代に打ち込んだ陸上競技から遠ざかって久しく、どうにも体力は下降気味である。心拍数が上がると同時、額には熱を帯び手足は重くなる。とはいえ昔取った杵柄、まだまだ足を止めるつもりはないが。
「ふふっ、大丈夫ですか先輩? ちょっとなまったんじゃないですか?」
「む。言うわね……」
悪戯っぽく
中倉 琉歌
は笑う。現役の競技者たる彼女は無論のこと余裕しゃくしゃくの歩みだ。競技生活最後の一年でもあり状態は実に仕上がっている。感慨深くついた莉鳥のため息には感嘆の色が滲んでいた。初めて出会った頃には後ろをついてくるばかりであった彼女が今ではこうして、莉鳥に先んじて先導してくれる。誰かを誇りに思う、とはこういう感情であろうかと莉鳥の口元は綻んだ。
「大丈夫よ。確かに少し体力は落ちたけど、星ヶ丘駅までは持たせるわ」
「無理はしないでくださいね」
琉歌も莉鳥の近況は承知しているだろう。大学二年へ上がるのを前にその準備で忙しいし、いざ新学年となれば薬学部所属の莉鳥は急増する実験やら実習に追われることになる。もちろん莉鳥とてあらかじめ承知していたことだ。薬剤師を目指す彼女にとって避けがたくそして自ら飛び込むべき荒波であった。
今回そんな多忙の合間を縫ってスプリングウォークに参加したのはつまり、そんな忙しない日々に暇を設け再び邁進する活力を得るためである。そうした意味においては、琉歌の少々小憎らしい言い回しにとてほっと安堵し、何より同行者があることは莉鳥を奮い立たせてもくれた。
「最近は、どう? 記録は伸びた?」
「はい、絶好調ですよ! フォームは定まってきましたし、タイムもずいぶん縮みました」
「そう、良かった。インターハイも近いわね、出場できそうなの?」
「たぶん……あまり実感はないんですけどね。あっ、もし出場できたら、見に来てくれますか!?」
「忙しいから約束はできないけど、ええ、予定が合えばもちろん」
やったね、と小さく拳を握る彼女の愛らしいこと。
(愛らしい……?)
そんな単語が頭にすいと浮かんでくるくらいには、琉歌へ対する自身の感情が変化していることを感じる。昂揚はウォーキングの胸の弾みがゆえに、ばかりではあるまい。
「まぁ、あまり気張らずに。自分らしく臨みなさい」
「はいっ、先輩」
笑顔が何とまぶしいことか。
寝子島駅を通り過ぎ、寝子島漁港を左手に見ながら歩む。早朝は過ぎ漁船の帰還も一段落したところだろうか、港に動きはなかったが、陽光に瞬く波間の美しさが莉鳥の足取りを支えてくれた。
「春ね……」
「ウォーキング日和ですね」
一心に歩む彼女の横顔もまた。
額に汗する先輩の、なんて凛々しいことだろう。思えば琉歌が彼女に初めて惹かれたのは、そんな横顔を見つめたからだった。走り抜ける彼女の懸命な顔に、深く刻まれた生き様を感じたからだった。
「ああ、すごい。寝子ヶ浜海岸って、改めて見ると、こんなに雄大なのね」
「そうですね。綺麗です……」
己の持たざる物を求めるのは人の常だ。彼女は常に琉歌の一歩先を走っていた。遠い存在への憧れが想いを強くした。しかしそんな彼女が今舞台を降り、新たな道を歩み始めたのを見るに、魅力が薄れたとは思わない。むしろ匂い立つ色気は増しその輝きは深みを帯びるばかりだ。
ああ、先輩。莉鳥先輩と心の中呼びかける。想い届くだろうか。願い叶うのだろうか。そうして不意に生まれた心の揺らぎや無意識の不安が、琉歌の手を動かした。
「! 中倉さん……?」
握っていた、いつの間にやら彼女の手を。離されると思った。咄嗟に強く握り込んだ。
彼女は拒絶しなかった。
「……ありがとう。確かに少し、疲れたかも。らくちんだわ」
その言葉が照れ隠しの言い訳であろうと琉歌は願う。
高鳴る胸のまま歩き続けていたら、いつの間にやら星ヶ丘駅へと着いていた。手のひらは汗濡れて、まるで彼女と自分が溶け合うかのようだった。
夜は陽炎まつりへ繰り出すことになった。
旧市街を華やかにライトアップするというイベントの始まりを待つ間、夕食タイムとする。
「なるほど、あなたの言ってた通り。美味しいわね」
猫戸屋の春メニューフェアの話を思い出したのは琉歌だ。二人してたけのこご飯をほおばると、なるほど確かに春の風味が広がった。
「あの……」
「うん?」
「いきなり手を繋いだりして、ごめんなさい」
滑り出るような言葉に、しかし莉鳥は首を振った。さして気にしていないようだった。少なくとも表面的には。
(……それはそれで、もやもやするけど)
「それにしても、ちょっと疲れちゃったわ。やっぱり日頃から運動していないとダメね。すっかりリズムが狂っちゃった」
たけのこの柔らかな歯ごたえを楽しみながらに莉鳥は言う。
「また体力づくりでも始めようかな。ウォーキングとかね」
「それなら……一緒にやります、か?」
一瞬きょとんとした顔を浮かべた彼女は、すぐに破顔した。
「あなたのペースについていけるか、分からないけど。それもいいわね」
「莉鳥先輩だもん、すぐに昔の感覚を取り戻せますよ!」
春のウォーキングが育むのは健やかな身体ばかりではない。きっとそれ以上に繋がるものがあったのだと、琉歌は信じる。
「陽炎まつり。楽しみですね、先輩」
「ええ。楽しみ」
夕刻の穏やかな時を、食後のコーヒーの香りと彼女と共に過ごした。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
網 透介
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
恋愛
NPC交流
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年05月08日
参加申し込みの期限
2026年05月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年05月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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