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爽風、あなたの物語
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運命の手が幾度我らを分かとうとも
「ふ……ぐ……っ」
とある山中に入り口を構えた亜空間内の豪奢な館の玉座の間で、悪魔は刃にて胸を深々と貫かれていた。
悪魔の名はオーズ、級は侯爵。空間と因果に関する能力と魔法を得意とする人族の敵である。
刃を握るは人族の少女。名は
アオイ
。冒険者である。故郷を悪魔に滅ぼされた彼女は、自らの復讐のため、ひいては人々の平安のために、悪魔を滅することを悲願としてこの館にやってきた。しかしいま、刃を握るその手は震え、悲願を為したその瞳からは大粒の涙が零れている。
「オサムくん……貴方なの……?」
そうだ、と頷いたとき、胸に溢れた充足感をどんな言葉で表現したらよいだろう――……
アオイとの出会ったのは、彼女がまだ駆け出しの冒険者だったころのことだ。
侯爵位をもつ悪魔オーズは悪魔のなかでは変わり者であった。悪魔とは人を襲い、自分たちより下位の存在として虫けらのように扱うものだ。ゆえに人族から忌み嫌われ、恨まれているのだが、オーズは人族を恨みも見下しもしておらず、むしろ人族に多大な興味を抱いていた。ゆえにオーズは人に化け、冒険者
オサム
と名乗って人の町に降りては人々に交じって活動していた。それは人族に興味がある彼の、ささやかな趣味だったのだ。
「えへへ……オサムくんと一緒だと、冒険がいつもより楽になるな」
アオイは戦闘より治療術のほうが得意な冒険者で、あるときオサムが悪魔の手から救ったことをきっかけにたびたびパーティを組むようになった。オーズ/オサムはすぐに彼女に惹かれていくようになった。彼女の太陽のような笑顔に。人ゆえのまっすぐさに。そして、復讐を誓う彼女の想いを知り、己が正体を明かせなくなった。
……それでまったく構わなかった。雨の日の野営を、薄暗いダンジョンを、ともに行ければそれでよかった。魔物討伐にも幾度もあたった。同族を討つことへの罪悪感など微塵もなかった。アオイを害する者はどのような者でも容赦するつもりはなかったし、もとより己が配下ではない。こうしてアオイは名を挙げていった。オサムは自分の名が広まることをよしとしなかったので、勇者アオイの名ばかりが人々の口にのぼるようになり、そしてとうとう――悪魔侯爵オーズ討伐の命がくだったのである。
「だから……だからあなたは、私の前から姿を消したの?」
「そうだよ」
「だったらどうして……簡単に亜空間の入り口を開いたりしたの! まるで私を招くみたいに……」
「招いたんだよ」
彼の配下は人族の世界とは分かたれた亜空に平和に暮らしている。昔は人魔大戦で人と戦ったこともあるが、同じ空間に別種の知的生命が共存するのは難しいと彼はそのとき思い知った。だから彼は、亜空を分けて己が館を築いたのだ。そのまま亜空の扉を閉じていれば、人であるアオイが道を見つけることは叶わなかったに違いない。なのに彼は敢えて、彼女を招き入れるような真似をした。敢えて、討たれたのだ。
「ふふ、こういうのを本望というのかもしれないな」
――コポ。
彼の口から、笑みと同時に血が溢れる。
「オサムくん……っ!」
アオイは刃を引き抜こうとする。オサムであれば彼女の刃を正面から受けてしまうはずがないということを、アオイは嫌というほど知っていた。だからこそ、この状況が彼自身の意思だとわかる。
「どうして……っ」
「まあ、俺も長く生きたし、討たれても良いかくらいには君を好ましく思ってるんだ」
「オサムくんのばか……私がそれで嬉しいわけないっ……」
「よくお聞き。君は為すべきことをした。誇って、俺の角を持って帰るがいい。そうして……幸せにおなり」
「オサムくんは!? その幸せのなかに、オサムくんがいないじゃない……!」
「心配することはないよ。ちゃんと転生魔法をかけたんだ。いつか……ここじゃないどこか……もっと平和で穏やかな世界で……俺は待ってる。君と……今度は敵と味方ではない関係で……」
――ともに生きよう。
微笑んでオサムはアオイを強く抱きしめる。
自重で刃が彼の肉体をさらに貫く。
切っ先が心の臓を突き破り、血しぶきが赤く世界を染めあげる。
アオイの絶叫が響き渡る。
それでも……。
オーズ/オサムの心は晴ればれとしていた。
彼がそのとき感じていたのは、あたたかな木漏れ日と爽やかな風――……。
<了>
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あとがき
担当マスター:
笈地 行
ファンレターはマスターページから!
ご参加ありがとうございます。笈地です。
さまざまなその後や架空のシチュエーションでのアクションをありがとうございます!
舞台も寝子島だけでなくさまざまで、いつも以上にイメージが広がって、執筆していて楽しかったです。
此度の物語が、みなさまの彩りになりましたら幸いです。
それでは、また別のシナリオでお会いしましょう。笈地でした。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
笈地 行
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年04月27日
参加申し込みの期限
2026年05月04日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年05月04日 11時00分
参加キャラクター一覧
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