紅燃ゆる渓谷美｜リアクション

紅燃ゆる渓谷美

　八神修は福岡空港に降り立ったところで、息をついた。今は金曜日の深夜。学校が終わって準備をしてから、遠距離恋愛中の七夜あおいの元へ文字通り飛んできたわけだ。
　スマホを取り出して、メッセージを送る。『今、福岡空港なんだ』
　すぐに返信が。！？マークスタンプだ。
『土日来るとは言ってたけど、いきなりだね！？』
『私が寝子島に行ってもいいよ』とも言っていたが、彼女の負担はなるべく減らしたいのだ。
　今日は空港近くのホテルに泊まって、明日待ち合わせすることに。

　その翌日。
　紅葉が綺麗だと噂の軽いハイキングコースの近くの駅であおいを待っていた。
　待ち合わせ場所についてすぐに、手を振りながら近づいてくる女の子の姿が。
「修君！」
　弾けるような笑顔。揺れるツインテール。修にとって、どうしょうもなく愛しい存在。
　こちらも手を振ると、彼女は嬉しそうに修の腕へ飛び込んできた。
「！」
　朝早く、人通りがほとんどないので思いっ切りハグ。お互いを確かめ合う。
「会えて嬉しい」
「ああ、俺も」
　と、近くを杖をついたおばあちゃんが通ったので、慌てて離れる。
「サプライズで行こうと思ってたのに」
「考えは同じだったな」
　お互い笑い合う。
　そのまま、ハイキングコースに入ることにした。お互いお出かけ用普段着だが、低めの山らしいので。
　利用客はおらず、はらはらと落ちる紅葉や銀杏の葉が花吹雪のよう。
「綺麗だな」
「うん。なんか、ふわふわしてくるね」
　青い空と色づいた木々がどこか幻想的だ。
「修君？」
　立ち止まって見つめてくるあおい。妙に真剣な表情だ。
「どうし」
　頭に手を添えられる。あおいが手にしたのは紅葉だった。
「ついてたよ？」
「落ちてきたか」
　上目遣いのあおいが可愛くて、つい頭をぽんぽんとする。
「ありがとう」
「修君、顔赤いね？」
　久しぶりに会ったし、こんな表情で見つめられるとどうしようもなく気持ちが高まる。
　幸せだ。
　と、風が吹き抜けた。
「わっ！　凄い風」
「寒くないか？」
「うん、厚着してき、くしゅんっ」
　油断していたせいか、盛大なくしゃみにあおい自身がよろける。
「あおい」
「へ？」
　修はあおいの体を支えた後に流れるようにお姫様抱っこをして、近くのベンチへ連れて行った。
「お、修君っ、大袈裟だよ」
「休憩しよう」
　ベンチの前で下ろして、鞄から取り出した薄いクッションを敷いてあおいを座らせる。
　それからクッションとお揃いのストールをふわりと彼女の肩にかけた。
「あ、ありがと」
　あおいは嬉しそうに頬を赤らめて、体を寄せてきた。
「お土産持ってきたんだ。後、温かいお茶も」
「！　え、凄いっ、作ったの？」
　自作のサツマイモプリンを2人で食べながら舞い落ちる紅葉を見つめる。
　あおいの頭に落ち葉がついているのを見つけ、それをそっと取った。
「あ、乗ってた？」
「でも」
　前髪にしているヘアピンのところに、紅葉を添える。
「お、似合う。可愛いよ」
「紅葉ヘアピンがあったらおしゃれかも。じゃあ、お返し」
　あおいはいつの間にかキャッチしていた銀杏の歯を修の頭に添えた。
「え、俺も？」
　似合うだろうか、と。
「うん、似合う似合う」
　楽しそうな笑顔に本当に癒される。寒いはずなのに、一緒にくっついているだけで、温かい。

このページにイラストを設定する