紅燃ゆる渓谷美｜リアクション

紅燃ゆる渓谷美

　色づいた紅葉と銀杏の葉が舞う駅の周辺で、鴻上彰尋は人を待っていた。しばしぼんやりと見つめていると、すぐにこちらに近づいている女の子の姿が。
「お待たせ！　早いね。待った？」
　七夜あおい、高校の頃の同級生だ。一泊二日で寝子島に久しぶりに遊びに来ている。
　女友達との約束もいくつかあるようだが、今日は一緒に遊んでくれるらしい。向こうから連絡をくれたのも嬉しかった。少なくとも、また会いたいと思ってくれる友達だと。
　その場で少し雑談。そして、
「猫又川上流の渓谷でも見に行かない？」
「あ！　もしかしてこの前の写真を送ってくれた時の話？」
「あおいさん、興味があるみたいだったから」
　渓谷の紅葉はきっと綺麗だろう。今は色づいた枯葉が舞っているのだろうから。
　九夜山に車で移動しロープウェイに乗り込んで、山頂から目的の場所に移動。
「うわっ、ちょっと怖いね」
　動き出したロープウエイの揺れにあおいが声を上げる。
「あ、でも……ほら綺麗だ」
　ロープウエイの窓から見える渓谷は美しい紅だった。
「赤い絨毯みたい。歩けそう」
　背の高い木々の上を通っているので、本当にそう見える。不思議だ。
　ロープウエイを降りると、人は少なかった。
「紅葉の風が吹いてる……」
　綺麗な渓谷の景色を一緒に眺める。
「晴れてるから凄く綺麗」
「ああ」
　暑くも寒くもない風が吹き抜ける。風は少し強い。
「あおいさん、元気でやってる？　体調とか」
「うん。元気。時々連絡くれてありがとね」
「俺の方こそ、連絡くれると嬉しいよ」
　少し離れて立って、お互い笑い合う。
「そうだ、記念に写真撮ろ？」
　腕を伸ばして、無理やりスマホを構える。
「入るか？」
「うー、ギリギリ景色が入らない」
　と、ロープウエイを降りて来た四人組がこちらを見ていた。
「撮りましょうかー？」
　同年代の女の子が笑顔で声をかけてきた。
「あ、それじゃお願いします」
　渓谷の景色と一緒に二人の姿をスマホで撮影。
「こんな感じでどうですか？」
　驚くほど綺麗に撮れていた。青の空が綺麗だ。
「ありがとうございます」
　ダブルデートらしい彼女達が去ってから車でゆっくりできそうなカフェへ向かうことに。
「彰尋君の運転楽しみ！」
「……安全運転で」
　久しぶりだったりする。

このページにイラストを設定する