ある晴れた日のぶどう狩り｜リアクション

ある晴れた日のぶどう狩り

「うん、やっぱり美味しいものは食べさせ合いっこしたいよね！」
「野々さん……？」
　ののこは修とあおいがしていたように、ニャニャパールを１粒つまむと、英二の口元へ差し出した。
「はい、あーん」
　英二は慌てて周りを見回して、誰もいないのを確認する。別の場所へ移動したのか、修とあおいの姿もない。英二は覚悟を決めて、あーんと口を開けて、ののこの指からぶどうを食べた。味が美味しいのはもちろんのこと、それでもやっぱり恥ずかしい気持ちが募って顔が熱くなる。
「今度は私ね！　英二くん、１粒ちょうだい！」
　恥ずかしさの余韻に浸る間もなく、ののこがぶどうを要求する。英二はシャインマスカットを１粒つまんだ。
「野々さん、あーん」
「うん、やっぱりシャインマスカットは美味しいね」
　英二の取った巨峰とののこの取ったネコメゴールドも同じように食べさせ合う。周囲に人がいなくて本当に良かった。

　長いようで短い３０分が終わり、農園に併設しているお土産ショップに立ち寄った。
「英二くん何買うの？」
「現地生産のぶどうジャムだよ」
「私もジャム買おうかな。使えることが多そう」
　ぶどうジャムは品種ごとに売っていた。
「私はネコメゴールドとニャニャパールにしようかな。お店で見ないから」
「めったに見ない味だから、それはいいね。僕もそうしようかな」
　２人とも同じ味のジャムを買った。
「今日は、おなかいっぱいにぶどうを食べられて大満足だよ」
「私も！　英二くん、誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ、一緒に参加してくれてありがとう。野々さんにとっても良い一日になっていたなら嬉しいな」

　ほどよくおなかがいっぱいになって、修とあおいは持ち帰るためのぶどうをタッパーに詰める。
「帰ったらブドウで何か作りたいな。何が良いだろうか」
「スイーツを作りたいな」
「それなら、スイーツに合いそうなブドウを持って帰ろうか」
「シャインマスカットのタルトとかどうかな？」
「いいね。帰ったら一緒に作ろう」

　シャインマスカットをタッパーにしっかり詰め込んで、農園に併設しているお土産ショップに向かう。
「ジャムならいろいろ使えそうね」
「そうだな。紅茶に入れてもパンに塗ってもいい……あ、ブドウの紅茶もあるみたいだ」
　ぶどうの果汁が使われた紅茶のティーバッグが売っていた。１袋に５パック入っていて、味は１つではなく、農園で扱っているぶどうの品種分ある。
「変わった品種の、ニャニャパールとネコメゴールド味のは買っていこう。他は……あおいは何が欲しい？」
「シャインマスカット味のバウムクーヘンが美味しそう！」
「じゃあそれも買おうか」
　バウムクーヘンに手を伸ばしながら、修は何気なくバウムクーヘンの紹介文を見る。「結婚式の引き出物にぴったり！」と書かれていて、思わず修の手が止まった。
「修くん？」
「いや、なんでもないよ」
　紹介文にあおいは気づかなかったようだ。そのことに感謝しつつ、修は平常心を保ってバウムクーヘンを買い物かごに入れた。いつかは……なんてことを思いながら。

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