ある晴れた日のぶどう狩り｜リアクション

ある晴れた日のぶどう狩り

　八神修と七夜あおいは、本土でミニ旅行中。秋の足音はフルーツから、とぶどう狩りに訪れていた。
「ぶどうは夏と秋の果物だからちょうど旬なんだ。品種がいろいろあるから、あれこれ食べて好みを探してみようか」
「うん、お互いに好きになるぶどうがあるといいね」
　２人は農家の人の説明を受ける。
「私は新品種が気になるなかな」
「じゃあ新品種を最初に取りに行こうか」

「野々さん、本土の農園でぶどう狩りだって。行ってみない？」
　佐藤英二は同じアパートに住んでいる野々ののこを誘う。農園は本土のため決して近くはなかったが、高級品種も含め３０分間食べ放題はとてもお得だと思ったからだ。ののこが美味しいぶどうが好きそうだと思ったのも理由の一つとしてある。
「うん、行く！」
　ののこは笑顔で返事をし、２人で行く計画を立てた。

　それが１週間ほど前のこと。
　約束した日はすっきりとした秋晴れで、寒すぎず暑すぎず、過ごしやすい気温だった。
「３０分間限定だし、さっそくぶどうを取りに行こう」
　案内板を見て、各品種のぶどう畑の位置を確認する。
「ネコメ……？　知らない品種だ！　私ちょっとこっちに行ってくるね」
「好きなのを取って、あとで落ち合おうか」
　英二はひとり、シャインマスカットを取りに行く。１房取って、１粒口に入れる。新鮮でみずみずしく、甘い。シャインマスカットは絶対食べるつもりで来たのだが、折角の機会だし時間はまだある。他のぶどうも食べてみよう、そう思って小粒なデラウェアと定番の巨峰も１房ずつ取ってきた。
　案内板のところにののこはまだいない。知らない品種……ネコメゴールドはもう取ったと予想して、ニャニャパールの畑へ行ってみると、いくつか房を取ったののこの姿を見つけた。
「野々さん」
「あっ英二くん。遅くてごめんね」
「まだ時間はあるから大丈夫だよ。お互いが取ったぶどう、もしよければ交換して味わってみない？」
「いいね」
　近くに荷物を置いて、ぶどうを交換して食べようとしたとき、少し離れた場所に見知った姿が目に入った。

　ぶどうを１房取って、修は辺りを見回した。周囲に誰もいないのをキョロキョロと確認し、ぶどうの実を一粒つまむ。
「あおい」
「なあに？」
「こっちの樹のも美味しいよ。あーん」
　修の言葉に抵抗なくあおいが口を開ける。修はこともなげにスマートにぶどうをあおいの口に入れた。
「美味しいね」
　そのあおいの表情は恥ずかしさを含んで少し赤い。
（ドキドキしたけど、可愛いあおいが見られてよかった）

「じゃあ今度は私の番ね」
　あおいは修と同じようにぶどうをつまむ。
「修くんも、あーん」
　修は反射的に口を開けて、あおいの指からぶどうを食べる。不意打ちだったから、周囲の警戒を忘れてしまった。
「美味しいな」
　言いながら辺りに視線をやると、見知った顔が目に入った。
「修くん？……あっ」
　修の視線の先を追って、あおいもそちらを見る。そこには顔をほのかに顔を赤く染めた英二とののこの姿があった。あーんから食べるまでを見られたのがはっきりわかるが、見られたのなら仕方がない。
「あおい、もう１回欲しいな」
「えっ、うん、ちょっと待ってね」
　あおいはもう一度ぶどうをつまんで、修の口へ運ぶ。
「あーん」
「うん、美味しい。あおいが俺のために選んでくれたぶどうだから、より美味しく感じるよ」
「恥ずかしいけど嬉しいな。ありがとう修くん」
　一度も二度も同じこと、と２人は堂々といちゃついた。

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