部活の夏、サークルの秋｜リアクション

部活の夏、サークルの秋

　昨年はインターハイ準優勝、ウィンターカップで優勝。
　そんな輝かしい成果を残した寝子高女子バスケ部を、今年は浅見柚乃がキャプテンとして率いていました。
　そして今年も神奈川県代表としてインターハイへ出場を決めたのです。
「トーナメント表が発表されたわ。うちは第二シード、第一シードは去年優勝の聖アデリア学院よ」
　部員たちを前に、柚乃はトーナメント表を指さして見せます。
「一回戦は滋賀の近江姉妹社高校。相手にとって不足はないわね」
　堂々と話す柚乃は、すっかりキャプテンが板についていました。

　そんな柚乃の様子を見ながら、霧生愛は物思いにふけっていました。
（去年は唯一の１年生レギュラーとして出場して、結果は準優勝）
　今考えれば冷静に仕方なかったと思えますが、あの時は悔しくて、人目憚らず大泣きしてしまい、先代のキャプテンに泣き止むまでハグしてもらったのでした。
（それ以来私は浅見先輩からの嫉妬を受けるようになり──ただでさえ当たりがキツいのにさらにきつくなったのよね）
　浅見先輩は先代キャプテンに恋をしていたのです。
（表面上、他の部員たちからは「勝利のために妥協なくぶつかり合っている」という風に誤解されていたから、深刻な不仲とは思われていなかったけど。皮肉なものよね）
　先代が卒業し、柚乃がキャプテンになっても愛への当たりの強さは変わりませんでした。
　先輩の仕打ちを嘆きつつも、愛なりにキャプテンである柚乃を支えることにしました。
（そうしなければ私に向けられるマイナスの感情が他の部員に向けられそうだったし）
　ここで投げ出してしまっては今までの努力が無になってしまいますし。
　なんといっても柚乃はキャプテンにふさわしい実力の持ち主でした。
　
　
（もともとは中学の時の失恋がきっかけだったけど）
　柚乃は思います。
　負けたくなくて頑張って、いつの間にやら強くなっていました。
　そして大好きな先代キャプテンに女バスを託され、「全力を尽くします！」と答えたあの日から。
　柚乃は期待に応えるべく、誰よりも努力を重ねてきたつもりでした。
（でも努力だけじゃだめ、結果を出さなきゃ！）
　
「みんな、行くわよ」
　時間が来て、第一試合に向かうべく、柚乃はチームメイトに声をかけました。
（キャプテンとして冷静に仲間に指示を飛ばしつつ、試合全体に目を配り、その中で勝機をつかんで流れを変えるように心がけて、それを実行する）
──言うは易し、行うは難し。
（でも私たちはそれをやってきた。そしてここまできたんだから、必ず勝つ！　そう信じてる）

　けれども、問題がないわけではありませんでした。
　後輩の愛との確執です。
　柚乃に継ぐ実力の持ち主。
（そして来年のキャプテンは彼女以外にあり得ない）
　理屈ではわかっているのですが──

　しかし試合が始まれば雑念は飛び、目の前の試合に自然と没入していきます。
　近江姉妹社高校はなかなかの強敵でした。
　ボールを取った柚乃はあっという間に高身長の敵にマークされ、自由を奪われます。
「霧生！」
「はい！」
　敵のわずかな隙をついて柚乃が、愛に針の糸を通すようなパスを出し。
　愛が迷わずシュートを決めます。
　それなら、とマークが愛に向くと今度は柚乃がいい位置に走りこみ、ボールを奪ってドリブルで走り出すのでした。

（傍目には私と浅見先輩は名コンビ、という風に見られてるのよね）
　表面を繕うためにバスケに真剣にならざるを得ないことを、何と不毛だろうか、と愛は思います。
　けれどそれが試合全体を見る目を養い、流れを掴んで好機を得ることに長ける結果につながりました。
（皮肉なものね）

　そんな具合に、いい感じにコンビネーションを見せつけ、無事に第一試合で近江姉妹社高を下しました。
「次もこの調子でいくわよ！」
　汗を拭きながら激を飛ばす柚乃に、部員たちの戦意はいや増すのでした。

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