YOZAKURA GARDEN in シーサイド｜リアクション

YOZAKURA GARDEN in シーサイド

　人、人、人。
　しかもほとんどカップルだらけだ。

　残暑厳しい９月の頃。
　周囲に響くは琴の演奏。
　見慣れているはずのビルの壁面には、見慣れた薄紅の花が咲いていた。
　ただし、見慣れぬ美しさで。
　カップルたちは皆、それを見ているのだった。
　そのうちの二人が、羽生碧南と鷹取洋二である。

「綺麗……」

　碧南は呟き「本当に」と返ったことに驚いた。
　咲き乱れる桜に気をとられ、傍らに立つ人の存在を忘れていたのだ。
　ついさっきまでは、自分たちもたくさんいるカップルたちの１組であることに照れていたのに。
　見れば洋二は、華やかな日本舞踊に見入り、琴の演奏に聞き惚れていた。
　音楽という芸術を愛する彼には、碧南以上の感動があるのだろう。
　無意識にリズムをとっているのか、揺れる体に、パーマの黒髪に碧南は唇をほころばせる。

（来年の春は、本物の桜を一緒に見たいな）

　まだ半袖を着ているというのに、首筋には汗が滲んでいるというのに。
　美しい桜のおかげで、心はすっかり春めいている。

「素晴らしい映像だったね」

　琴の演奏が終わると、洋二が碧南を振り返った。
　健やかな微笑みに、碧南は「そうですね」と返す。
　続く和太鼓の演奏を聞きながら、二人はキッチンカーが並ぶほうへと進んでいった。

「いろいろありますね。洋二さんは何にします？」
「そうだな……お、面白い車がある。僕はホットドックにしよう」
「面白い車？」

　碧南は洋二が見る方向に目を向けた。
　と、そこにはバスケットボールを飾った派手な車が。

「君と付き合い始めてから、つい、見つけてしまうんだよな。君が好きなものを」
「私も……さっき琴の演奏を聞く洋二さんを見て、楽しそうだなって思いました」
「はは、僕たちはずいぶん、素敵な関係を築けているようだ」

　洋二は明るく笑った。
　碧南も笑んだが、頬が熱くてしかたない。

　二人はホットドックとコーヒーを購入し、付近に用意されていたカフェスペースへと向かった。
　木製の椅子に腰を下ろし、食事をしながら、映像を楽しむ。
　さっきの店主が好きだと言ったプロチームの話題を離しているうち、和太鼓を映していた画面は、いつのまにか満点の星空へと変わっていた。
　見事な映像の合間の休憩かと思いきや、端から合成された黒猫がぴょこん！　と飛び出して「あっ！」と声を上げる。

「猫！　かわいいですね」
「そうだな。今日はかわいいものがいっぱいだ」

（いっぱい？　猫は１匹だけど）

　映像を見ながら、首を傾げた碧南は気づかない。
　洋二がちらりと、碧南を見たことに。

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