スタジオガブリの世界展｜リアクション

スタジオガブリの世界展

◆白羽の矢

　落合まゆらは森繁美術館へ向かっていた。目的はそこで開催中の『スタジオガブリの世界展』だ。しかし今回は鑑賞が目的ではなく仕事として足を運んでいる。
　声優デビューして１０年目。長年の努力が実り、ついに人気声優の一人となった。人気だと自分で言うのはどうかという疑問はあるが、様々な作品に出演して積んだ経験は確かなものだ。ついこの前上映されたばかりのスタジオガブリの新作にも出演した。

（ガブリ作品は顔だしの俳優しか出さない方針なんだけど、ここ２、３年は助演中心に顔出しの仕事もするようになったから、それで選ばれたのかな？）

　自分の出演作を美術館で振り返る機会だったが、来館者ではなく仕事で来たのは想定外だった。

（こういうのって普通主演とかがするもんじゃない？）

　彼女がガブリの新作に出演したといっても、あくまで助演だ。しかし主演たちのスケジュールがどうにも合わず、彼女に白羽の矢が立った。美術館に到着したとき、彼女の足はわずかに震えていた。

（今まではお客として気楽に来れたのに、今回はナビゲーターだもんね）

　何年経っても仕事の直前には緊張が伴う。客として来館したときは展示品をのんびり鑑賞できるが、今回は案内人の役を務めなくてはならない。いちど深呼吸をしてスタッフ用の入り口から館内に足を踏み入れた。
　館内の関係者に自己紹介を済ませると、今日すべきことの説明を受ける。構成自体はオーソドックスな内容だった。目玉の展示品やジオラマ体験、物販コーナーのおすすめ品の紹介など。開館するまで台本にずっと目を通した。
　そしていよいよ開館するとガブリファンが何人もやってきた。最初は慌ただしく感じたが、慣れてからは楽だった。気持ちもだいぶ落ち着いている。休憩の時間にはキュレーターの方にガブリ作品の魅力やまゆらのおすすめ作品を紹介する余裕も出てきた。時間はあっという間に過ぎていき、楽しさを胸に抱えながら仕事の終わりを迎えた。

（今回の仕事引き受けてよかった）

　スタッフに挨拶を済ませた帰り道、まゆらはそっと微笑みを浮かべた。

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