黒雨の日｜リアクション

黒雨の日

　八神修が借りている寝子島のマンションには、同じく夏休みの七夜あおいがお泊りに来ている。修は大学生で東京在住だが週末に帰ってきた時はいつもこのマンションに泊まっているのだ。
　そんな修は、外出先の図書館から自転車をこいでマンションに向かっていた。一度あおいと共に帰宅したが、図書館で本を貸し借りするために一人出ていたのだ。
「……遅くなったな」
　本を選んでいたら思いのほか時間が経っていた。マンションに一人で居させているあおいのことが少し心配だ。もちろん、電話で連絡はしたが。
「早く帰って……ん？」
　鼻の頭にぽつりと雨粒が。
「！」
　嫌な予感を覚えるまでもない。家のある山の下に付いた時、急な雨が降り出したのだ。土砂降りだ。　
「まずい」
　雨は急激に強まる。辺りには民家が数件、さすがに飛び込むわけにもいかないので雨宿りは無理そうである。
　図書館の袋は防水だ。本は安全だが、修自身、雨具を持っていない。
「くっ」
すぐに顔がずぶぬれになり、額に髪が張り付いた。
（台風みたいだ）
　一時的なのだろうが、風圧もかなりある。
　必死でペダル漕ぐ。
「ううっ」
　前を向くと、目が開けていられない。しかも坂道だ。なかなか上がらない。
　張り付いて重くなった衣服に気を撮られるとひっくり返りそうになる。
　バイクで行けば良かったとか、天気予報は大外れだとか色んな思考が巡る。
「はあはあっ」
　暫しで息も上がる。雨風のせいで息が出来ない瞬間があるのかかなり苦しくなってきた。
　やがて、マンションへ到着。
　ふらふらになりながら、自分の部屋へ。
「た、ただいま」
「修君！？　おかえり、大丈夫？」
　心配そうに寄ってきたところで、あおいは足を止めた。
「あ、ああ」
　乱れて下がった前髪をかきあげ、荒い息を整える。
「濡れちゃったよ」
　と、土間で爽やかに笑う。
「た、タオル持ってくる！」
　何故か照れながら、奥へ向かい、すぐにバスタオルを持って戻ってきた。
「これ」
「ああ、ありがとう」
　体に張りついた白いシャツは完全に透けていて、肌の色が薄っすら映っている。そこまで気になる程度ではないが。
「は、早くシャワー浴びた方がいいよ！」
　顔を赤くしてタオルを差し出された修だったが、
「ちょっと待って」
　シャツの裾をまくり上げ、端の方を濡れタオルのようにぎゅっと絞った。ぼとぼとぼとっと絞られた雨水が玄関に落ちる。
「！！」
　あおいが顔を赤くしていた。
「どうした？」
　捲ったシャツの裾からそれなりに鍛えているだろう腹筋がちらちら見えていて、濡れ透けなことも相まって、非常にセクシーな状態に。
　あおいは慌ててバスタオルを修にかけた。
「か、風邪引いちゃうよ？」
「そんなに触ると、濡れるぞ？」
　バスタオルごと修に抱きついていることに気づいていないのだろう。
　修は、くすっと笑った。
（暖かいな）
　乾いたバスタオルはまるで、熱を持っているかのようだった。

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