霊界七夕｜リアクション

霊界七夕

　宵闇の中、浮かび上がる露店の灯り。
　あたりを見回し、深倉理紗子は呆然としていた。
「気が付いたら夜……よね、まーちゃん」
　そういえば今日は七夕ね、と話していたさっきまで、こんな縁日はなかったのに。
「そうね。いつの間にか浴衣……で、お祭りのようね」
　深林真瞭も、夢でも見てる？　と訝しみながら縁日の様子を眺める。
　理紗子は白地に淡い緑色の麻の葉の柄の浴衣。
　真瞭は藍色地に清廉な百合の花を咲かせた浴衣を纏っていた。

「ここ、なんだか妙だよね？」
（一見するとどうってこともないように思えるけど……）
　理紗子は漠然とした違和感を感じ、そう口にした。
「そうね、ハロウィンでもないのに妖怪が歩いてたり、透き通って浮遊してる人がいたり」
　真瞭は落ち着いた様子だ。
（さすがまーちゃん……）
　と理紗子が思っていると、急に手を伸ばして理紗子の頬をつねってきた。
「痛っ！　まーちゃん何するのよ……」　
「ごめんごめん。どうも夢じゃないらしいわね」
「もう……」
　ふいに理紗子の頭に可能性が閃く。
「って、ここは……霊界？　まさか私たち死んじゃった……？」
　焦っていると、真瞭が言った。
「それなら、脈をとってみたら？　りさちん」
「そうね……」
　真瞭の手を取り、脈に触れる。
　医者である理紗子はそれだけで冷静になる自分に気づく。
「正常だわ。多分これも寝子島ならではの怪現象なのね」
　納得してしまいつつ、いや納得しちゃっていいの？　と自分に突っ込みたくなる気分でもある。
「それならそれで開き直って楽しんだ方がいいんじゃない」
　真瞭の笑みに、理紗子も頷いた。
「そうだね」
　お互い忙しい身、一緒に縁日を回れることなどそうそうない。

「お金はあるみたいだけど、使えるのかな？」
　手持ちを確認し安堵したものの、おっかなびっくりといった態の理紗子。
「なんとかなるんじゃない？　ほら、あそこの人普通のお金で買い物してる」
「本当ね……」
　屋台の綺麗な飲み物や串焼きのいい匂いに惹かれ、星のゼリーサイダーとおばけ焼きを買ってみた。
「星のちらし寿司に星の今川焼きだって。りさちん、シェアしない？」
「うん」
　真瞭に差し出されたちらし寿司を一口食べる。
　味は悪くない……むしろ。
「おいしい！」
「このおばけ焼きなかなかいけるわね」
　真瞭も満足した。
　とりあえず毒の心配はなさそうだ。
「彦星と織姫の七夕飾り、パズルになってるのね。やってみない？」
　可愛い人形がついた七夕飾りを手に、真瞭と理紗子はああでもない、こうでもないと人形を動かし。
「できた！」
　ついに彦星と織姫は仲良く並ぶことができた。
「面白かったわね」

「見て。飛んでるの……短冊？」
　笹飾りの近くを飛んでいるものを見て、真瞭は目を疑った。
「ええ……捕まえたら動かなくなるの？」
　子供たちが追い回し、捕まえては短冊に願い事を書いているようだ。
「私たちも捕まえましょ」
　真瞭はさっそく手近の短冊に手を伸ばす。
「生きてるみたい……」
　理紗子もなんとか捕まえることができた。　
　二人は互いに見せずに願い事を書く。
　そして離れたところに吊るした。

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