感謝の想いを花びらに｜リアクション

感謝の想いを花びらに

　その日、綾辻綾花は数カ月振りに高校の門をくぐった。
　ガーデニングイベントがあり、一般参加も出来るらしい。
　花壇に花の苗を植えるというシンプルなイベントだが、意外と人気のようだ。
　配られた道具を手に図書室近くの花壇へ移動する。
「もう準備できるてるみたいですね」
　土がふわふわになっていた。確認してから、苗を配っているスタッフのところへ行く。苗がずらりと並んでいて、それぞれ、花の写真が添えてあった。
「何を植えますか？」
　綾花が早川珪に問う。
「綾花さんは？」
「私はペチュニアとサルビアを」
「へえ、綺麗な花だね」
　綾花はクスリと笑う。
　ペチュニアは『あなたと一緒なら心が安らぐ』という花言葉。そしてサルビアの花言葉は『良い家庭』とか『尊敬』だ。
　いつか珪との良い家庭を持ちたい。そして彼を尊敬してる。きっと花言葉までは知らないのだろう。あえて言葉に出さず胸の奥に秘めておきたい。
「心が安らぐ、か」
　はっとして珪を見る。
「最近読んだ本に花言葉が出てきたんだ」
　いたずらっぽく笑う珪。
「し、知ってたんですね」
　顔が赤くなるのを感じた。心を見透かされたようで少し恥ずかしい。
　それぞれの苗を選んで花壇へと戻る。スコップで掘って、一つづつ植えていく。
「そういえば珪さんは何にしたんですか？」
　不覚にも選んでいるところを見ていなかった。
「ああ、僕はベゴニアだ」
　つい花言葉を思い出す。
（片思い、愛の告白、親切、幸福な日々）
　不思議な言葉の並びだ。
（あまり花言葉は気にしないのですかね）
　特に男性はそうなのかもしれない。
「ほら、この葉の形」
　葉がハート形に見える。
「あ、可愛いですね」
　花言葉より、これを優先したらしい。見た目の可愛さは一番だ。
（私と一緒だから選んでくれたんですかね）
　並んで作業をしていく。時々話をしながら、最近読んだ本の内容の感想などを話しながら。
「あっつ……」
　一瞬、熱い風が吹き抜け座ったままよろけた。珪の肩に体重がかかる形になる。
「おっと。大丈夫かい？　気分悪い？」
　肩を抱かれて近距離で話しかけられて、不意打ちでドキッとしてしまう。
「だ、大丈夫です。ちょっと風でよろけて」
　しかし、それでも脱水気味なのかも知れない。配られたスポーツドリンクと冷タオルで休憩することにした。日陰の木の下で並んで座る。
「あ、終わったら写真撮りませんか？　咲いた時に見に来たら、比べたいです」
　どのくらい綺麗な花が咲くのか。ワクワクする。
「ああ。咲いたら一緒に見よう」
「はい。あ、図書室が近いので」
「時々、窓から覗いてみるからな」
「はい」
　涼みながら、珪の指に自分のそれを重ねる。手を繋いだら、きっと熱いから。でも、そばにいたい。
「……いい天気ですね」
　夏の日差しは非常に強い。

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