3N｜リアクション｜らっかみ！

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「し、しらすドリーム？」
　寝子島の商売人が普遍的に備えるらしい探究心は時として顧客の想像を斜め上に凌駕する。アメリカ生まれのアイスクリーム店3Nも寝子島へと上陸し地域限定メニューなど考案するに至り、その素養を受け継いだようだ。全く持って味のイメージが湧かず、稲積柚春はついウォルター・Bへ理解へ辿り着くための一助を求めたが彼の反応とて似たようなものだった。
「しらす味のアイスって、どんな感じだろうねぇ？」
「ううーん……」
　興味はある。興味はあるが勇気が出ない。しらす＋アイスクリームに一体どんなシナジーが生まれ得るというのだろう。確かに世には驚くような変わり種アイスが多々あるものだが……静岡のうなぎアイスなんてのは序の口で、例えば福島の地鶏卵アイスとか。高知県の焼きナスアイスとか。新潟県のぎんなんアイス、沖縄県の海ぶどうアイスなどなど。それらと比較した時、寝子島しらすアイスはアリやナシや。
「ご注文お決まりですか？」
「コーンでキャットキャンディとキャラメルナッツでお願いします！」
　柚春は勝負を避けた。挑む必要のない一戦ではあった。ああやっぱり、とがっかりするより定番安定の味を選んで悪いことはあるまい。
「じゃあ僕は、バニラとチョコミントにしようかなぁ。それと、カップでしらすドリームも」
「えっ」
　一方隣にはチャレンジャーがいた。思わず彼を見ると、口角を上げて笑む。
「ま、気になっちゃったし味見くらいしてみようよ」

　店舗近くの木陰に移動して食べることにする。店内は冷房が効いて大層過ごしやすいが、あえて暑い中冷たいアイスを食べるというのも乙なものだ。
「さて、さっそく……」
　ベンチに腰かけたウォルターがまず手に取ったのは、件のしらすアイスのカップだった。スプーンで一すくいするとそれを差し出し言う。
「食べてみる？」
「うん！」
　ウォルターからの「あ～ん」に頬を緩めた柚春だが、しらすアイスだ。少々複雑な表情を浮かべつつも口を開く。スプーンが差し入れられると意を決して舌の上へと乗せた。
「……！」
「どう？　マズイ？　それとも案外いける？」
「美味しい……かも？」
　ソフトクリームの甘さに練り込まれたしらすの塩味が程よくマッチしていた。魚臭いなどと言うこともないし、アイスとしらすで良い所を打ち消し合うということもない。むしろ意外な相乗効果だ。端的に言って美味であった。ウォルターも興味を惹かれたか「どれどれ」と掲げたスプーンごとぱくりと頬ばった。
「これは、美味しいね？」
「ねっ、ぜんぜんいけるよね！　さっすが寝子島だね～」
「うんうん。もうひと口ちょうだい」
　気にいったようで、リクエストに応えてもうひと口を彼の口へ。「あ、間接……」と今さらながらにつぶやくと、ウォルターはにやりと笑ってスプーンを奪い、柚春の口元へ突きつける。もちろん躊躇いはしなかった。

　木陰と言えど地面からの反射で汗ばむ気温だ。しかしながらだからこそそこで口にするアイスの冷感が心地良い。熱中症対策も忘れずに。
「そういえば、今年はまだかき氷を食べてないなぁ」
「アイスもいいけど、かき氷もいいよね。ワットはどっち派？」
「もちろん、どっちも派だよぉ」
「あ、ズルい！　ふふふっ」
　かき氷と言えば。ふと思い出して、柚春は取り出したスマホへ指を滑らせる。
「最近のかき氷機とかアイスクリームメーカーって進化しててさ。家庭用のものでもすごいのがあるんだ～。ほら、これとか」
「へえ、いいねぇ。このくらいの価格でも結構本格的なのがあるもんだね」
「それに、変わり種もいろいろあるんだよ。冷やしたプレートの上で混ぜるタイプとか、これなんか、見て！　丸い容器を氷で包んで、ボール遊びをしてるうちにアイスができるんだって。すごいよね！」
　ショッピングあるあるで、ページを送るたび新しくもの珍しいタイプがいくつも出てくるものだからついつい見入ってしまう。
「かき氷機もいろいろあるよ。台湾式のふわふわ氷ができるのとか、冷凍の果物を滑らかにスライスして乗せられるのとか」
「おお～、面白いねぇ。これいいね、ウチのキッチンに置いてくれるようメアリに頼んでみようか……って柚春、垂れてる垂れてる」
「えっ？」
　手を伝う冷たさに気づいた時には、彼の顔がぐいと近づいていた。

　温く艶めかしい感触が指先を這った。
「咄嗟だったから。ふふ」
　彼の舌が垂れ落ちたアイスを舐め取ったのだと気づく。夏の暑さとの相乗効果だ。柚春の頬は瞬時にしてのぼせてしまいそうに赤く灯った。

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