マジックアワーを観覧車で｜リアクション

マジックアワーを観覧車で

　有沢茉奈は私服姿の閑野カノンの姿を見つけ、駆け寄った。
「お待たせ」
　手を振ると、カノンは笑いかけてきた。
「あ、制服」
「うん、学校帰りだから」
　この夕方の時間帯での待ち合わせなので、そのまま来たのだ。
「じゃあ行こう。観覧車だったよな？」
「そうそう」
　ねこったーで見かけた観覧車とマジックアワーの噂。

『マジックアワーを大観覧車で見た二人はより絆が深まって末永く幸せになれる』

　ねこったーの投稿には一緒に、キレイな空の写真が載っていた。夕方と夜の境目、まるで魔法のようにグラデーションのかかった空。オレンジから薄水色、薄紫と夜闇への変化を一枚の絵にしたかのような、幻想的な画像だった。きっと、自分たちの目で見たとき、写真よりもずっとキレイに映るだろう。
「あ」
　カノンの呆けるような呟きにはっとした。観覧車へ続く舗装された道を見ると、長蛇の列が出来ていた。
「凄いな。茉奈が言ってた投稿がバズッてたのか？」
間違いないだろう。
（皆、考えることは一緒、ね）
　少し早めに来たとは言え、夜になる前に乗れるだろうか。空を見上げると、遠くの空に少しだけグラデーションが混じっていた。太陽の夕日にきらきらと光っている気がして、ここからでもキレイだ。
「……！」
　少しだけ心が躍る。
「うーん。これは間に合うか？」
　そんなカノンに茉奈は視線を向ける。
「もし間に合わなくてもさ」
　ここで、二人で見れば良いのだ。マジックアワーを二人で見て共有することが大事だ。今でもこんなにキレイなのだから。
　と、カノンにぎゅっと手を握られた。
「うん、俺も間に合わなくても良い。どこで見てもキレイだからな」
「！　だよね！」
　焦りもなく待っていると自分達の番が回って来た。マジックアワーの時間帯にどんぴしゃだ。欲がなかったからか、上手く時間が待ってくれたのかもしれない。
　観覧車に乗って並んで座るとてっぺんに到達した時、それは目の前に広がった。そして華々しく燃えるようなゴールデンアワーからブルーアワーまで目を見張るようなグラデーションを見ることが出来た。
「綺麗」
写真よりずっと感動する。それに彼と一緒にいられることが嬉しい。
茉奈はカノンの手の甲に自分の手を重ねた。
「夢見たい」
「ああ」
　現実感が薄れる景色は本当に、一瞬で夜に消えて行った。

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