マジックアワーを観覧車で｜リアクション

マジックアワーを観覧車で

　水上桜はふと目を覚ました。きっと長く眠っていたのだろうが、程よい疲労感が体に残っている。昨日は彼氏である滝沢匠のアパートへ泊まった。お互いの肌のぬくもりを感じ合い、そのまま落ちたらしい。
　寝息を立てる匠の横から上体を起こして、一糸纏わぬままベッドを降りる。
　カーテンの隙間から光が差し込んでいた。夜明け前、太陽が昇る少し前。
「……ん」
　水を飲もうとキッチンスペースへ向かおうとしたが、なんとなくカーテンの先が気になった。
　差し込んだ光が虹色に見えたせいだ。
　近くにあったバスタオルを前に当てて、片手でカーテンを開ける。
「あ」
　息を呑む光景だった。太陽は見えないが、そのわずかな光が少し薄暗い空に漏れ出している。薄オレンジと薄水色のグラデーション、金色に輝く雲がきらきらと光っている。
「マジックアワー」
　その響きだけでも綺麗な言葉は自然と口から漏れた。夜と朝の境目、夜でも朝でもない一瞬の輝きは瞼にずっと焼きつきそう。
　綺麗だった。
　すっと布ずれの音がした。
「はっとする」
　いつの間にか室内に人の気配。振り向くと同時に力が抜けた手からバスタオルが滑り落ちる。
「起きた？」
「ああ、眩しくて」
「滝沢君、ちょとこっちに来て見て。綺麗だよ」
　自分同様、何も纏っていない彼との昨日を思い出し、関係の深さに比例しない苗字呼びに少し笑ってしまう。
もはや『滝沢君』、『水上』で固定されているし、このままで良いだろう。
「ああ、綺麗だな」
どこか照れくさそうにそう行った。
感動しているのかと思いきや、そうではないらしい。
後で聞いた話によると、桜の裸身が、マジックアワーの光に包まれて、なんとも言えない妖艶なものに見えたらしい。
「水上」
「ん？」
「その、お前も綺麗だな」
　腰に手を回される。
「ありがと」
　自分のほうへ引き寄せようとした匠より早く、桜が彼を抱き寄せ、軽くキスをした。
「ちょ、おい」
「残念でした」
　そしてもう一回キス。
　目を閉じても、マジックアワーの光が焼きついていた。

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