ある朝焼けの空に｜リアクション

ある朝焼けの空に

　旅鴉月詠は絵を描きながら野々ののこの話を聞いていた。
　何気ないののこの日常の話だ。

　最近食べて美味しかったもの。
「２１（ニャーティーワン）アイスクリームの人気の味をイメージしたチョコがコンビニに売ってて、買ってみたの！　すごく美味しかったから、今度はアイスクリームを食べてみたい！」

　最近見て面白かったもの。
「ねこったーで流れてきた写真だったんだけど、黒い猫がね、容器にすっぽり入って溶けたみたいだったよ！　道端に土鍋とか置いたら実際に見えるかなあ」

　元来おしゃべりだったから、わけあって黙っていた期間は辛いものだっただろうなと思う。ののこの話は尽きる様子を見せない。
　話よりも、大量に用意していたカップケーキやスコーンのほうが尽きるのが早そうだ。紅茶だけはまだある。
　月詠の絵は描き終わっていた。
「ののこ」
「うーん？」
「このまま夜更かしをして話を続けるか、明日にするか……どうする？」

（なぜなら明日は休日なのだから）

「まだまだ話したい！」
　ののこはまだ話し足りないらしい。
「ではそうだな、手伝ってもらおうか」
「何を？」
「お菓子作りを」
　メイドに頼めば作ってくれるのだが、こんな夜中だ。

「おからとを主成分とし、チョコとナッツを取り込んだケーキ、これを作っていこう」
「やったー！　あたしは何をすればいい？」
「材料を混ぜてもらおう」
　月詠はボウルに材料を入れる。ののこはただひたすらそれを混ぜる。
　おから、チョコレート、砂糖、卵、ココナッツオイル、砕いたナッツ。ひたすら、混ぜさせる。
　キッチンに響くのは、混ぜるときの単調な音。それがまた眠気を誘う。
　混ぜ終わったら型に入れて、オーブンで加熱をする。
「まだまだ喋り足りないのに、なんだか……」
　ののこが目をこする。そんなことを喋りながら、しばらく待って、ケーキが焼き上がる。少し冷ましてから冷蔵庫へ入れる。
「でも少しくらいは味見しようか」
　端っこのひとかけらを切って、お皿にのせる。それとホットミルクも用意して、ののこに差し出した。
「さあめしあがれ」
「いただきまーす！」
　食べ終わる頃、ののこはふわぁ、とあくびする。まだまだ話したいと言っていた元気はどこへ行ったのか、口数が少ない。
「どうやらまどろんできたようだね」
「ん……眠い……のかな？」
「部屋へ戻ろうか、ののこ」
（ふふふ、これが私の魔術さ）

　気づいたらきっとののこはベッドにいるだろう。
「カカオに含まれるとある成分は……」
　月詠の説明が始まる。でもきっと、ののこは最後まで聞いていられない。閉じゆくまぶたに勝てそうになかった。
「ふっふっふ、おやすみ」
　最後にそんな月詠の言葉を聞いた……気がした。
「おやすみ……月詠ちゃん……」
「また明日」

このページにイラストを設定する