かくされたよくぼう｜リアクション

かくされたよくぼう

【隠し事はない？】
　初夏のある日のこと。
　星ヶ丘のレストランにて、稲積柚春はウォルター・Bと夕食を取っていた。
（ワットって、僕に秘密にしてること、あるんだろうか）
　向かいに座るウォルターを見やって、彼女はふと思った。
　親しくなって三年。今では結婚を前提としたつきあいのウォルターだが、秘密を共有しているかと問われれば、柚春には素直にうなずくことができなかった。
（ワットはレモンが好きで、面白そうなものならなんでも興味を持つ。あと女性のお尻も……他に、特別隠してることは、あるのかな）
　彼女は、ぼんやり食事をしつつ、考えを巡らせる。
（それとなーく訊きたいけど、それなら僕の秘密も話さないといけないかな。でも、ワットに特別秘密にしてることなんてあったかなぁ。カプギアのворに話しかけちゃうのもワットは知ってるし、お気に入りのアクセサリーが彼の瞳の色だってことも気づいてるだろうし）
　直球勝負で正直に訊けば、教えてくれそうな気もした。ただその場合、秘密は「夏休みのサプライズ旅行」といったたわいのないもので、訊かない方がよかった……となりそうな予感もする。

　そんな柚春に、ウォルターが声をかけて来た。
「さっきから上の空だけど……僕に何か言いたいことがあるんじゃないのかなぁ」
「え……。ああ……」
　少しためらったあと、柚春は尋ねる。
「その……ワットには何か、秘密というか、僕に隠してることとかは、ないのかなと思って」
「秘密にしてること？」
　問い返されて、彼女はうなずいた。
「うん。ちょっと気になったんだよね」
「そっかぁ」
　ふわりと返して、ウォルターは少し考える。そして、手にしていたナイフとフォークを置くと、真っ直ぐ柚春に視線を向けた。
「別に隠してるってわけじゃなかったんだけど……柚春には、僕より先に死なないでほしいとは、思ってるかなぁ」
「え……」
　思いがけない言葉に、柚春は驚く。それへ、ウォルターは続けた。
「僕の大切な友人は、ずっと若いころに僕を置いて逝ってしまったんだぁ。……それは、僕をかばってのことだったけど、でも……僕はもう、大切な人に置いて行かれるのはイヤかなぁ。先のことは、誰にもわからないって、僕にもよぉくわかってはいるよぉ。でも、それでも、大切な人に置いて行かれたくないし、自分が大切な人に僕と同じ思いをさせるのも、いやなんだぁ」
　穏やかな言葉の中の、強い想いを感じて、柚春はつと胸をつかれる。
　同時に、彼が自分に向ける気持ちの深さも感じて、口元に笑みが浮かんだ。
「わかった。ワットより先に死なないように、できる限り努力するよ。そして、二人ともしわくちゃの老人になるまで生きて、一緒に老衰でポックリいこう」
　クスクス笑って返す柚春に、ウォルターも小さく吹き出した。
「いいねぇ、それ。僕たちの目標にしよう」
　言って、改めてナイフとフォークを手に取りながら、彼は胸に呟く。
（話してよかった。やっぱり君は素敵な人だねぇ。僕の未来の奥さん）
　一方、柚春も食事を再開しながら、考えていた。
（ワットの願いをかなえるのはもちろんだけど……僕だってワットに置いていかれるのはイヤだし）
　つと顔を上げて、ウォルターを見やる。
「ワット、二人でおじいちゃんとおばあちゃんになるまで、ずっと一緒に生きようね」
　言うと、「もちろんだよぉ」と穏やかだが、きっぱりした答えが返って来たのだった。

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あとがき

担当マスター：織人文
ファンレターはマスターページから！

マスターの織人文です。
参加いただき、ありがとうございました。

PCさま方それぞれの「隠された欲望」を、ドギマギしたり微笑ましく感じたりしながら読ませていただきました。
そして、こんな形にしてみましたが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、うれしいです。

またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

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