マクラに襲われてスヤァ｜リアクション

マクラに襲われてスヤァ

◆外出を賭けた攻防

　『マクラ』が猛威を振るっていた、ある日のこと。朝永真深は星ヶ丘の自宅で朝食を済ませ、のんびり過ごしていた。

「そろそろかな」

　時計に目をやると、彼女は身支度を始めた。しかし出かけようと玄関から一歩踏み出したところで何かの気配に気づいた。

（あれは、もしかして……）

　四角い形をしたなにかが、もこもこと移動している。おそらくあれが噂の『マクラ』だろうと察する。直後、マクラは彼女に接近して眠らせにかかる。想像以上に強い眠気だ。もうこのままベッドにもぐりこんで目を閉じたら、あとは一気に惰眠を貪るだけ。そう感じさせるだけの威力があった。

（でも今はそれどころじゃないんだよね）

　服も髪も整えて、これから街中へ行くところなのだ。せめて用事が終わるまで出てきてほしくなかった、というのが彼女の本音。しかし現れてしまったのは仕方ない。どうにかマクラの攻撃をかわして追い返すしかない。見た目はただの枕なので、おそらく物理的な攻撃も効くだろう。

（それなら）

　真深は姿勢を低くしてマクラの攻撃に備える。これは外出したい彼女と、眠らせたいマクラの譲れない対決だ。その戦いで先に動いたのはマクラだった。その形状を布団のように広げ、覆いかぶさってくる。
　それを右にかわして、反撃の押し返しをマクラに繰り出す。しかしその手触りの良さにどうしても眠気が襲ってくる。

（こんなに柔らかいなんて……でもあたしも負けるわけにはいかない）

　どうにか踏ん張って体勢を保つ彼女を、マクラは容赦なく包んできた。

（ぜったいに負けるわけにはいかないんだから……ああ、でもだめ、もうこれ以上は限界で……）

　やがて意識が遠のいていき、静かな寝息が彼女から聞こえ始めた。目を覚ましたときには辺りがオレンジ色に染まっていた。

「……ああ！　夕方になってる！」

　寝起きの頭に自分の声が刺さる。疲れはすっかり取れたのに、やるせない気持ちが拭えない。そんな彼女を尻目に、マクラはどこかへと去っていった。

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